36神猫 ミーちゃん、迷宮探索に巻き込まれる。

 ゼルガドさんの工房を後にした俺とミーちゃんは、ハンターギルドに戻って昼食にした。


 今日はこないだの炒飯改良版を頼んでみる。うん、美味しくなってるね。お米があるって事はあれもできるって事だ後で材料を集めよう。クアルトであるんだからここにもあるだろうしね。楽しみだよ。


 昼食後はスミレを連れて街の外周を歩いて来た。スミレと俺の体力作りの為。俺はバテバテになってるけどね……。



「みぃ……」



 そんな目で見ないで、ミーちゃん。この体が初期設定過ぎるんだよ。鍛えないとどうしようもない。


 一時間程、スミレを自由にさせてハンターギルドに戻る。


 スミレの体調もだいぶ良くなり、軽度の病気にまでなっている。全快するのも時間の問題だと思う。けど、ミネラルウォーターの消費が激しい。手元の残りも心許ない。早く完治してくれる事を切に願うよ……。



 ギルドの中に入ると何か慌ただしい。



「何か起きたんですか?」



 ヘンリーさんに聞いてみる。



「あぁ、この街の近くに流れ迷宮ができたんだ」


「流れ迷宮?」


「み~?」


「ネロ君は流れ迷宮を知らないのかい?」



 さっぱりです。



「流れ迷宮は、本当の迷宮の突発版なんだよ」



 ははは……そもそも迷宮ってなんでしょう?



「もしかして、迷宮も知らないのかい?」


「……知りません」


「みぃ……」



 迷宮とは誰が作ったのかわからないけど、大昔からあるそうだ。迷宮は多くの恩恵を与えてもくれるけど、中は複雑な迷路になっていて、罠があったり、モンスターが居たりする危険な場所。たまにAFが見つかる事でも有名なんだって。この国に確認されてるだけでも五つの迷宮があるそうだ。クアルトの街とクイントの街の間にもあると教えてもらった。


 って事は通って来たのかな? 俺。


 それで、流れ迷宮は一定期間の間現れまた消える不思議な迷宮なんだそうだ。それが街のすぐ近くに現れたのだから、大騒ぎって事。現れてる期間は四、五年ぐらいが普通らしい。



「でもね、迷宮は複雑な迷路になってるからね。腕の良いマッパーが居ないときついんだよ」


「マッパー?」


「地図を専門に描く人の事だよ。本来はギルド側で最初に迷宮に入って中を調査しないといけないんだけど、今この街にマッパーの方が居なくてね。困っている所さ」



 最初にギルド側で迷宮に入るのはその迷宮の難易度を判定する為。それに迷宮の各階には必ず安全地帯と言う場所があって、ギルド側ではその場所を把握する決まりになっている。どうしてかと言うと、もし迷宮に入ったハンターさん達に何かがあった場合、そこに避難できるかもしれないし救助もそこに向かう事になるとヘンリーさんが教えてくれた。



「マッパーって大変なんですね」


「マッパーの方は特殊なスキル持ちだからね。今回は間に合いそうもないから、ハンター達での人海戦術でマップ作りをしてもらう事になるね。これは、大変だよ」


「ちなみに特殊なスキルってなんですか?」


「マップスキルだよ。なかなかに珍しいスキルだね」



 ん? どこかで聞いた事があるスキルだね?



「み~」



 どうしたの? ミーちゃん?



「みぃ……」



 ミーちゃんが残念な顔をして、俺の胸をテシテシして……って! 俺のスキルだぁ!



「あのぉ」


「どうしたんだい? ネロ君?」


「俺、マップスキル持ってるんですけど……」


「へ?」



 ガタッ! ガタガタッ! 



「それ! 本当なのネロ君!」



 エバさん、こ、怖いですよ。



「ヘンリーさん。俺を鑑定してみてください」


「良いのかい?」


「構いませんよ」



 ヘンリーさんが俺をじっと見る。



「確かにマップスキルありますね。それにしても面白いスキル構成だね。一つだけ読めないスキルがあったよ」


「それは内緒でお願いします」


「了解だ。男なら一つや二つの秘密がなければ、魅力的じゃないからね」



 もちろん、読めないと言うスキルは猫用品だ。パミルさんにも見てもらったが読めなかった。試しにその文字を書いてもらったら『猫用品』だった……この世界で読めるの俺くらいだよ!



「ネロ君、これはハンターギルド職員として特別職務命令を発令します。流れ迷宮の探索を命じます。当然ですがこの命令を断る場合、職務規定違反となりこの国に居られなくなると思ってください。尚、この任務が終了するまで、当方クイントハンターギルド職員となりますのでクアルトに帰る事もできないと考えておいてください」


「嘘……ですよねぇ?」


「嘘ではありません。一応本部の方には早急にマッパーを送るようには上申はしますが、どの程度で到着するかは断言できません」


「マジですか……」


「ギルド職員の宿命です」


「ふ、福利厚生の改善と賃金アップと生命の保証を、よ、要求します!」


「賃金の上乗せは認めます。生命の保証については最善を尽くすとしか言えません。福利厚生とはなんですか?」


「宿をなんとかしてください。洗面所すらないので不便すぎます。狭いしねぇ、ミーちゃん」


「みぃ……」


「仕方ありませんね。本職が来るまでの間でしたら認めましょう」



 よし! 最低限の権利は引き出したよ。


 で、いつからなんですかねぇ? いろいろ用事があるんですが……。



「取り敢えず、明日の午後に一度入って頂きます。全てはそれからです」


「毎日入るんですか?」


「迷宮探索は精神的に辛いものですので、三日入って一日休みのペースになると思います」


「夕方の仕事もするんですよね?」


「ネ、ネロ君! 頼むよ~。私の可愛い赤ちゃんがかかっているんだよ~」



 ヘンリーさん、それって公私混同ですよね……。



「わかりました……善処はします」


「助かるよ~」


「一つだけ条件があります。それを聞いて頂けない場合は、この国から出ていきます」


「そ、その条件とは、何かしら?」


「迷宮にはミーちゃんも一緒に行きます。これは絶対条件です!」


「み~!」





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