29神猫 ミーちゃん、クイントに到着する。

 あの村での襲撃が嘘のように、クアルトを出発して六日目の昼前に何事もなくクイントの街に着いてしまった。


 ミーちゃんの猫砂セットのお陰だったのか、たまたまだったのかはわからないけどね。


 ゼフさん達アルター商会の商隊とはここでお別れ。商隊はこの先の幾つかの街のアルター商会の支店を回るそうです。



「ネロさん。気を付けて帰ってくださいね」


「ハンターギルドの指示に従うんだぞ」


「ゼフさん達もファーレンさん達もお気を付けて」


「み~」



 彼らは今から荷卸しをして新たな荷を積み、明日の早朝出発するそうだ。ミーちゃんもせっかく仲の良くなったバムとのお別れを惜しんでいるみたい。


 されど俺には休んでる暇は無いのだ、ハンターギルドに行かねばならぬ。とは言っても、ハンターギルドの近くで降ろしてもらったので歩いてすぐです。


 受付に行くと



「ハンターギルドに何か用かな~?」



 むぅ、このパターンはまた子供に見られてるな。確かにこの世界の男性はガタイが良い、だからって小さい人だって居ない訳じゃない。俺だって小さいって言っても百七十センはあるんだぞ。クアルトのギルドで測ってもらったから間違いない。



「これでもクアルトのハンターギルドの職員です」



 そう言って、事前にパミルさんから預かっていたハンターギルド職員証明書と手紙を渡す。ふん!


 受付のお姉さんは胡散臭そうな顔をしているけど、奥に渡した物を持って行ってくれる。


 しばらく、ミーちゃんと戯れていると奥から男性が来て奥の部屋に案内された。また、しばらく待つとご年配の女性が入って来た。



「良く来ましたね。ネロ君。私はこのギルドの統括主任のエバです。よろしくね」



 なんて事でしょう……ガイスさんと同じ役職の方のようです。天と地の差……いや天国と地獄の差くらいあるんじゃないだろうか?


 エバと名乗った女性はご年配ではあるけれど、気品のある顔立ちで若かりし頃は相当な美人であった事がうかがえる。



「どうしたの? 私の顔に何か付いてるかしら?」



 ま、不味い。ご年配の方とは言え、まじまじと顔を見てしまった……。



「す、すみません。統括主任ってガイスさんみたいな人がなるものとばかり……」


「ホホホ……。あの子が特別なのよ。他の街の統括主任も普通の人がやってるわ。ガイスは別として、パミルはお元気?」


「パミルさんにはお世話になりっぱなしです。とても元気ですよ。ガイスさんは……なんで、居るんでしょうね……」


「ホホホ……パミルからの手紙にネロ君とミーちゃんをよろしくって書いてあったわ。その子猫ちゃんがミーちゃん?」


「み~」


「あらあら、ミーちゃんはお利口さんね。抱かしてもらってよろしくて?」


「み~」



 なんか、俺抜きで会話が成立しちゃってる……。仕方ないエバさんにミーちゃんを渡したよ。



「まあ、なんて艶々の毛並み、女性として羨ましいわ」



 そりゃそうでしょう。毎日、万能薬兼ポーションを飲んで、ギルドでのお仕事の時はお姉さん達がミーちゃんのブラッシングをしてくれるし、それ以外の時は俺がブラッシングを欠かした事が無いですからね。艶々ですよ。


 エバさんはミーちゃんを心ゆくまでモフモフを堪能したようで、やっと現実世界に戻って来た。



「帰りの話なんだけど、クアルトの街方面に行く商隊は二十日後に出る事になってるの。その商隊と一緒に帰ってもらうことになるけど、よろしくて?」


「問題無いと思います。この街でやりたい事もありますし」


「泊まる場所はギルド指定の宿を用意させてもらったわ。もちろんタダよ。それから夕方からだけで良いから、ここのギルドのお手伝いしてくれないかしら? ネロ君が鑑定持ちで優秀だと手紙に書いてあったわ。うちのギルドも買い取りカウンターは忙しいのよ」


「わかりました。ですが査定まではできませんよ」


「わかっています。向こうでやっていたと言う、コアの鑑定をお願いするわ」


「大まかなコアの金額のリスト頂ければ問題無いと思います」


「今日からでよくて?」


「はい。よろしくお願いします」


「それから、もう一つお願いがあるんのだけれど……手紙に書いてあったんだけど……ネロ君が働いてる間、ミーちゃんも雇いたいのよ。駄目かしら?」


「み~」


「良いみたいですよ」


「うちの女性陣にも癒しは必要なのよ……」



 流石、統括主任だけあって苦労してるんだろう。それに比べ、ガイスさんって……。


 取り敢えず、用意してもらった宿に行く事にした。


 宿に着きハンターギルドで部屋を用意してもらった事を話すと、自分で管理してくれと一言言われ、鍵を渡された。食堂は見当たらない。自分で用意するしかないようだね……。部屋も狭く、ベッドと壁に据え付けられてる棚? 板? しかない。シ、シンプルイズベスト?



「みぃ……」



 何も言うな、ミーちゃん。所詮タダだ。安心して寝られれば良い、そう思う事にしようじゃないか。


 お昼もまだ食べてないので、少し街をぶらついてみよう。街をぶらつき屋台でお昼ご飯を買い、公園でミーちゃんとお昼にする。


 クイントの街はクアルトの街に比べ良く言えばこじんまりとしていて、悪く言えばゴミゴミと密集している感じだ。街の大きさ自体は同じくらいらしい。


 ハンターギルドの周りをぶらぶらしてると、共同浴場を見つけた。まだ二の鐘が鳴ったばかりなのにやっている。中に入って聞いてみよう。


 番台のおばちゃんに聞いたら、この街は職人が多く時間をずらさないと全員入れなくなるらしい。職人さんによっては早朝から仕事をして、昼で仕事終わりにする人も多いので丁度良いらしいね。


 入って行くか聞かれたけど、ミーちゃんが居るから後で来ると言ったら、ミーちゃんを預かるよと言ってくれたのでお願いする事にした。もちろん、ミーちゃんの了解を得てますよ。


 そして、当然フルコース!


 それじゃあ、ミーちゃんまた後でね。



「み~」




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