4神猫 ミーちゃん、お風呂でまったりする。

 共同浴場から宿に帰って来て、部屋に戻る前に女将さんに頼んで桶にお湯を貰った。


 部屋に入ると、ミーちゃんが飛びついて来てスリスリしてくる。危なく桶を落とすとこだったよ。寂しかったのかな?



「ミーちゃんもお風呂に入って綺麗になろうね」


「み~」




 ミーちゃんの了解が得られたのでテーブルの上に桶を置き、ミーちゃんを抱えてお湯に入れると普通にお湯に浸かって桶の縁に顔をのせ和んでいる。明らかに慣れた感じだ。ミーちゃんも風呂好きとは嬉しいねぇ。


 ミーちゃんのまったり顔をよそにミーちゃんの体をお湯の中でモミモミして、汚れを落とそうとしたけど殆どお湯は汚れていない。足の裏がちょっと汚れていたくらい、 顔を濡れタオルで拭ってやり、桶から出してバスタオルでくるむ。



「み~」



 ある程度水気をとってやり、後は自由にさせると自分で毛繕い始める。こんな近くで猫が見れるなんて夢のようだよ。いつまで見てても飽きないね。


 なんとなく神様の気持ちがわかった気がする。ミーちゃんのような子猫だと庇護欲をそそられるからね。


 でも、やる事はやってしまおう。桶を外の井戸で洗って女将さんに返してから、洗面所で歯を磨く。やる事とと言ってもそれくらい、テレビやゲームがある訳じゃないし、部屋にあるのはランプのみ。


 下の食堂兼酒場は、まだ大勢のお客で賑わっている。やる事無いし寝ようか。明日はどうやって金策するか考えないとね。



「み~」



 布団に入ると、ミーちゃんも入って来る。寝てる間に潰さないように注意しないとね。なんて考えてたら睡魔に襲われ、無条件降伏でした。




 翌朝は鐘の音で目が覚めた。六回なったような気がするので、六時なんだろう。


 布団から起き上がると、ミーちゃんも目を覚ます。大きな欠伸をした後、朝の挨拶をしてくれた。



「み~」


「おはよう」



 洗面所で顔を洗い寝癖をブラシで直す。次はミーちゃんを念入りにブラッシングする。艶々になり、ミーちゃんの可愛さが三割……いや三倍増しだね。


 身なりが整ったので朝食を食べに下に降りると、既に多くの人達が朝食をとっている。



「起きたかい、空いてる所に座りな」


「女将さん、おはようございます」


「み~」


「ああ、おはよう」



 女将さんと朝の挨拶をかわして、空いてる席に座って待つ。待つ間に周りを観察してみる。みんな屈強そうな人ばかりだ、女性もチラホラいるけどその女性でさえ、俺より強そうに見える。


 試しに鑑定でこの中で一番屈強そうな男性を見てみると、ほどほど強いと出て腕力強化と槍技のスキルを持っているのが見えた。あの人でほどほど強いって、本当に強い人ってどんだけなんだろう。



「お待たせたね」


「いえ、全然です。ありがとうございます」


「ミーちゃんは今日は特別別嬪さんだね」


「み~」



 ミーちゃん、満面の笑みを女将さんに見せる。ブラッシングの効果がこうも早く現れるなんてね。ミーちゃんのブラッシングは毎日の必須事項にしよう。


 猫缶とミネラルウォーターを召喚してお皿にのせてあげる。やっぱり、だるくなる。



「頂きます」


「み~」



 朝のメニューは黒パンにハムエッグにポタージュとサラダだ。残念ながらソースや醤油はなかった。当たり前か……。美味しいけど味付けは塩が少々掛かっている程度、素材の味を活かしているとも言える。今後の食生活はなんとかしないと苦労しそうだよ。


 俺が朝食を食べ終わる頃には、周りには誰も居なくなっていた。



「ネロは急がなくて良いのかい」


「急ぐって、なんかあるんですか?」


「み~?」


「何って……仕事だよ。早く行かないと良い仕事を取られちまうよ」


「そうなんですか……何処に行けば良いんですか?」


「何処にって……あんた、ハンターギルドに決まってるだろさ。まさか、知らないのかい?」


「ははは……知りません」


「あれま、ネロは何処から来たんだい。全く」



 女将さんがミーちゃんと戯れながら噛み砕いて説明してくれた。


 ハンターギルドは名前の通り、モンスターを狩るのが本来の仕事。国の兵士や街の守備隊などだけでは全て対応しきれないので、国の代わりに代行しておこなう派遣会社だと思えば良いと思う。但しハンターギルドは国からの干渉は許していないらしく、戦争には手を貸さないと公言しているみたいだ。


 昔からある組織で、今ではモンスターを狩るだけではなく、色々な仕事も斡旋してくれると言う事だ。



「成程。後で行ってみます。今日は行く所があるので」


「そうだね。登録だけでもしておきな」


「み~」



 一旦、部屋に戻りバッグを持って出掛ける。今日は武器を見に行こうと思ってるのだ。スキルは無くなったけど、訓練はしないと駄目だろう。その為にも扱える武器を見ておきたい。もちろん当初の予定通り弓を使おうと思っている。


 ミーちゃんを抱っこして宿を出る。武器屋は昨日、共同浴場に行く途中に見つけている。問題はこんな朝早くからやっているかだね、なんて思ったけど店の前まで来たらやっていた。この世界の人達は働き者のようだよ。


 ドアを開けて入ると、何とも言えない皮製品臭さや鉄臭い匂いがする。



「なんだ客か?」


「み~」


「はい。弓を探してます」


「ならこっちだ」



 店の奥の方に連れていかれると、棚にいくつも弓が並んでいる。



「標準的な弓はどれですか?」


「そうだなこれ辺りかな」



 そう言って棚から弓を取って渡してきたのは西洋弓のロングボウだった。


 試しに引いてみる。前にアーチェリーの四十ポンドは引いた事があるので、結構自信があるんだよね。ぐ、ぐぅおぉー、重過ぎる……。引ける事は引けるが、標的を狙う事なんてできないぞこれは……。もっと軽い弓はないのだろうか? あれ? 店員さんが呆れ顔で俺を見ているよ。なんで?



「止めといた方が良いと思うぞ」


「へっ?」


「モンスターを狩るなら、それが最低ラインだ。お前さんじゃ無理だ。鍛えて出直してきな」



 ガッビーン! マジですか? マジなんですね……orz。


 トボトボと店を出て来ました。なんて事だ。初っ端から躓いてしまうなんて……。


 俺の人生設計が砂の城の如く呆気なく崩れ去った。



「みぃ……」



 ミーちゃんの悲しげな鳴き声が辺りに響き、そして俺は途方に暮れる……。




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