エピローグ

 名古屋市中川区に住む女子中学生が先月より行方不明になっていることが警察への取材で明らかになりました。警察は事件・事故両面で捜査をしています。

 行方不明になっているのは名古屋理科大学教授・藤林弘文さんの娘で中学二年生の美夏さんで、十三日の昼頃、アメリカに出張していた父親との電話を最後に連絡が取れなくなっています。

 部屋が荒らされたような形跡はなく、遺書なども見つかっていないことから、警察は事件や自殺の可能性は低いと見ていますが、念のためそのような可能性も視野に捜査を続けていくとのことです。


テレビニュースで少女の失踪が報道されたのは、一週間ほどが経過してから。父親が何度か連絡を取ってみても通じず、さすがに心配に思ったのか警察へと通報した。通報を受けた警察は誘拐の可能性も視野に入れ慎重に捜査を行ったが、進展がないことから公開捜査に切り替える。しかしそれでも情報は集まらなかった。堀川に浮かぶ巨大ウナギの亡骸が強烈な臭いを放っていたこと、災害後であることから付近の人通りが少なかったことがあげられる。ネット上では「謎の失踪少女」と持てはやされ、一部では宇宙人に誘拐されたなど根拠のない噂も広がったが、メディアからその話題が消えていくにつれ収束していった。その代わりに出てきた新たな話題、それは少女の失踪とも関連していたが、人々は知らない。


独立行政法人海洋研究開発機構の調査チームは今日午前、駿河トラフ付近で巨大な生物からなる群を発見したと発表しました。名古屋市を襲ったウナギと見られる巨大生物と同種であると推測されています。

 それがこちらの映像です。名古屋を襲った巨大生物群は地震直後に民放のヘリから目撃されており、今回の調査はそのことから駿河湾海底に生息域があるのではないか、と仮定して開始されました。これまでの調査でもカメラに黒い影が映ったことはありましたが、巨大生物が群れを成して生息している映像を捉えたのは初めてのことです。

 海洋生物に詳しい織田愛美・東京大学教授の話です。

「これまでの概念を覆す発見です。確かに駿河湾は他の海に比べて栄養分が豊富なことで知られていますが、ここまでの巨大生物が、これだけの数いられるほどのキャパシティがあるとは考えられていませんでした。今後の深海の見方が大きく変化すると思われます」

 海洋研究開発機構は今後も調査を進め、この生物の生態を明らかにしていきたいとしています。


 おわり

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海へ向かう人間、陸へ向かうウナギ 愛知川香良洲/えちから @echigawakarasu

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