ムギさんと恋愛相談
ある気持ちいい風が吹いている夜。ムギさんと僕がカウンターで珈琲を飲んでいる隣では、モカがため息を連発していた。
今日はキューピッドは一緒じゃないようだった。
「やあ、モカ。ため息ばかりついてどうしたんだい?」
「ちょっと恋の悩みなの。ムギさんはともかく、君にはまだ早いかな」
モカはカウンターにべったりと身体を投げ出したまま、ちらりと僕を見てまたため息をつき始めた。その様子に僕は、ちょっとむっときた。
「モカ、確かに早いかもしれないけど言ってごらんよ。僕だってこう見えて、なかなかなんだよ」
「そうなのかしら? じゃあちょっと聞くだけ聞いてみて」
モカはふう、ともうひとつため息をとつくと単刀直入に切り出した。
「彼氏と別れたいの」
ムギさんと僕は顔を見合わす。
「だってモカ、君は誰とも付き合っていないんじゃないの?」
「ええ、そうなの。片想いなの。でもすごく彼の事が好きなの」
「じゃあなんで付き合う前に別れたいなんて悩んでいるんだい?」
「いつも彼との待ち合わせに場所に行くとね、そこに来ているのは私なの」
「え? 君は君と待ち合わせしてるの?」
「ええ。ちゃんと言うと私の頭の中の彼。とってもシャイなんだけど、すごく優しいの。誰よりも私の事を分かっていてくれている理想の彼なの。でもね、彼ってば私じゃない? だからいつももどかしくて……。ねえ、私たち、うまく別れられないかしら? そうすれば、2人は絶対うまくいくと思うんだけど……」
結局、僕達とモカは、いい答えが導き出せずに店を出た。
モカと別れ、カリュウ川沿いをムギさんと歩く。
「やっぱり僕には、まだ早すぎたのかな」
「早すぎたかもしれないけど、とても難しい事なんじゃないのかな」
「そうだ。鏡の中のカメレオンに頼むというのはどうだろう」
「彼が外に出るのはルール違反だし、根本的に違うのじゃないのかな」
「別れてから一緒になりたいんだものね」
「別れる必要があるのかどうかも怪しいね」
「難しいね」
「難しいよ」
川のほとりには、相変わらず気持ちの良い風が吹いていた。だけども僕たちの頭の中は、その風の力を借りても何かもやもやしたままだった。
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