ムギさんと宇宙

 10日ぶりにやっと見つけたカクノとりを逃がしてしまった僕は、ひざを抱えてカリュウ川のほとりで座り込んでいた。

 せっかくのチャンスをみすみす逃してしまい、情けないやら、悔しいやら、恥ずかしいやら、腹が立つやら。その時の僕は、あとひと押しで泣きだしそうだった。

 すると、ムギさんがするりと隣に座った。僕はぐっと涙をこらえると、夜空を見上げてムギさんに話しかけた。


「ねえムギさん、あれ見てよ。宇宙の中にはあんなにも星があるんだよ。僕達なんてのは、その中のひとつの小さな星の、さらにひとつのパーツにすぎないのさ。なんてちっぽけな存在だろうね。こんな僕がどうしようと、きっとどうでもいいんだろうね」


 くさくさした気分のまま、両手を背中側について足をのばす。すると、ムギさんがちょこんと膝の上に乗っかって僕を見つめて話しかけてきた。


「ちっぽけな存在? そうでもないさ、ほら」


 ムギさんはにっこりと笑うと、突然僕の胸に爪を突きたてた。驚く僕の目の前で、音を立てて胸を左右に引き裂く。目の前に広がる鮮やかな僕のカラダの中。


 僕が僕の中に見たものは、宇宙だった。


「こ……これはこれで荷が重過ぎるなあ」

「まったく君ってやつは」


 ムギさんは胸の閉じ痕をぺろぺろ舐めながら、愉快そうにしっぽをSの字に振った。

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