第百四二話 姉救出作戦 その1
「キエエーーー!!」
また敵が現れた。
奇声を上げて襲い掛かってくるエネミーに、ナイフで串刺しにして回る。
メアリー・エドモンドの目標はただ一つ、『姉、ミカの奪還』。
敵を見つけると手早く処理して、直ぐに走り去る。
そして、必ず集団の最後の一体を残して、こう迫る。
「ミカお姉様はどこだ!?」
メアリーはエネミーの首根っこを掴んで脅す。
だが、卵から出てきたエネミーは言葉も喋れず、毎回キーキーともがいているのがお決まり。
聞き出せないと知ったメアリーは、脳天に容赦なくナイフをブッ刺して、それを抜き取って、遺体を放り投げる。
「お姉様......」
メアリーは焦っていた。
作戦開始から、血眼で居場所を探しているが、嫌らしいぐらいにダンジョンの中が複雑で、いつまでたってもミカを見つからない。
もう処刑されてしまったのかと思うと、余計に焦りは強くなる。
(早く、早くお姉様を助けなければ......!)
そう考えてた時に、壁から突然、ゼリー状のものがニュルっと飛び出てきた。
不気味に思えて思わず一歩下がりつつ腕のナイフを抜き出す内に、壁から通り抜けるようにその姿をあらわにしていく。
「ス、スライム......?」
スライムと言ったら、RPGゲームではポピュラーな雑魚敵ではある。
とはいえ、壁に穴をあけずに通り抜けるという能力も持っているうえ、今まで同じような敵ばっかりだっただけに、このスライムは異質に感じる。
メアリーは面倒事になる前に、即座にナイフで一刀両断に仕留める。
一瞬倒したかとも思ったがそんなことはなく、すぐに断面と断面とがぴったりとくっつく。
やはり、そう簡単には倒せ無さそう。
「探していたのだ、メアリー・エドモンド」
女性の声を加工したかのような高音域でスライムが喋ると、身体が盛り上がり、そこから窪みをつけて薄ら笑いの顔を形成していく。
何故ディフェンサーズに所属もしていない自分を知っているのか、そして自分を探していたのか疑問に思ったが、まずはスライムの名前を問う。
「お前は誰?」
「ピルなのだ。お前を見つけるのに随分苦労したのだ」
「私に何の用よ? 倒しに来たの?」
「最終的にはそうなるが、まずはついてきてほしいのだ」
「嫌っ!」
会っていきなりついてこいと言われれば、絶対にそこで自分に不利な仕掛けがあるのは目に見えていた。
そもそも敵に従うこと自体、気が乗るわけがない。
どのくらいの強さかは分からないが、この場でさっさと倒してしまいたかった。
「お前を倒して、早くミカお嬢様を......!」
「そのミカがいる場所へ行こうって言っているのだ」
「えっ」
ピルの思いもよらない言葉に、一瞬言葉が詰まった。
「お姉様が......?」
「そうなのだ。そこでお前と決着をつけようっていうのだ」
敵の口から出た言葉だから、当然疑いはあった。
これももしかしたら、罠なんじゃないかと。
しかし、そこにミカがいると言われれば、ピルの言うとおりにに行くしかなかった。
「......わかったわ」
「話が早いのだ。ついてくるのだ」
ピルは振り向きざまに薄ら笑いをした。
※ ※ ※
ある程度進むと、階段からさっきまでのゴツゴツとしたダンジョンとは打って変わって、整えられた空間に変貌した。
メアリーは、これから戦うであろうピルの後を歩く。
「この先にミカ・レヴェリッジがいるのだ」
「本当に?」
「なのだ」
ピルがヌルヌルと這うように階段を下りているのを追っていると、やがて階段の出口が見えた。
その正面に鉄格子が掛けられてるのが見えると、メアリーははっと察しが付く。
「まさか......!」
メアリーはノタノタ移動しているピルをダッシュで追い越して、一目散に鉄格子の方へ向かう。
見えたのは、はやり姉のミカであった。
両手が鎖で繋がれて、俯いている。
「お姉様!!」
メアリーは鉄格子を走った勢いで掴むと、それに反応したのか、顔をゆっくりとメアリーの方へ向ける。
目が半開きの状態で、衰弱しているのは一目で分かった。
「メ......メアリー......」
力のない声で彼女の名前を呼ぶ。
服はボロボロで、素足もまた鎖で拘束、身体は前と比べてもやせ細っていた。
このミカの姿を見たメアリーは大きなショックを受けざるを得なかった。
メアリーにとってのミカは、どんな敵だろうと屈服せずに立ち向かい、「屈辱を受けたくない」という執念が強いイメージであった。
それだけに、この惨状はメアリーに大きく響いた。
「そんな、お姉様がこんなことになるなんて......」
「全く、そいつを仕留めるのは案外楽勝だったのだ」
ピルが自慢げに話しているのを聞くと、半泣きの状態だったメアリーは嘆きを止める。
悲しみは、怒りへとエネルギー変換されていく。
「ヤツは倒れる直前まで俺を見つけられなかった。攻撃も俺には効かなかった。そして俺が少し攻撃を加えたらコロッとなのだ」
「き、貴様が......」
「そうなのだ。ミカを倒したのは俺、お前にナンバーズ殺害をを仕向けたのも俺、ディフェンサーズに招待状を送ったのも、俺なのだぁ!」
「貴様あああああ!!」
激高したメアリーは後ろを向き、この部屋いっぱいに響き渡るほどの大声で叫び、高速でナイフを数本同時に抜き取って構える。
姉にここまでの屈辱を植え付けるのは、この上なく耐え難い悔しさであった。
「許さん、絶対に許さない!!」
「まあ、一応水は与えたのだ。だがプライドなのか、一口としてありつくことが無かったのだ。だからそうなったのだ。」
ピルがそう話すや否や、メアリーはさっきのイメージ崩壊を撤回させる。
確かに彼女はピルに敗北した。
しかし『屈服』はしていない。
ミカは水すらも拒絶し、この三日を生き抜いており、確かに抵抗の意志は見せていた。
正にお姉様らしいと、感心せずにはいられなかった。
「お前をここに呼んだ理由、それはミカに『絶望』を見せるためなのだ。ここでお前を殺し、ヤツの望みを失ったような顔を拝みながら息の根を立つ......考えただけでも爽快だ! さあ、来るのだメアリー・エド――」
ピルがメアリーのフルネームを言い切る前に、彼女は躊躇いもなく時を凍らせた。
『
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