第百四三話 姉救出作戦 その2

 「......へ?」


 一瞬の出来事だった。

 ......いや、メアリーに限っては、数秒の出来事だった。

 ピルは戦い前の締めの言葉を言い切るまもなく、体には数本のナイフが体に突き刺さっていた。

 突然の出来事だったのか、ピルは明らかに動揺していた。


 「な......何いいいい?!」

 「油断したわねピル! 私は止めるのよ!!」 

 「う......ククッ」


 焦りを見せていたと思えば、急に強気になり出した。

 ただのハッタリではなかったらしく、体に刺さっていたナイフを難なく弾き出す。


 「.....確かにそれは予想外だったのだ。下位ナンバーごときに負ける奴なんてたかが知れてると思ったが、中々やるのだ。しかし、それだけでは倒せないのだ!」


 ピルはそう言い放ったと思えば、突然ピルの体が消え始めた。

 ピンクの色はどんどんと見えなくなり、あっという間に姿形が全く見えなくなってしまった。

 どっかに消えてしまったのか。


 「メアリー......!」


 ミカが弱々しいながらも絞り出すような声でメアリーに話しかける。


 「お姉様!」

 「そいつは透明になったり、すり抜けたりするの!」

 「透明......?」

 「けど攻撃するときは姿を現さないといけないみたいなの!」


 それでメアリーの隙をついて、奇襲を仕掛けるつもりなのか。

 となると、一番考えられるのは背後からであった。


 (さあ来い。姿を見せないと攻撃できないんだ、そこを仕留める......!)


 しかし、メアリーの意識は後ろに行き過ぎていた。

 突然メアリーの叫び声が聞こえた。


 「メアリー『止めて』!!」

 「えっ――」


 メアリーの『止めて』は、『時を止めて』だと直感で判断したメアリーは、すぐさま世界凍結を発動、自分以外の『時』を止める。

 しかしその際、首元に針が刺さったような痛みを感じた。

 と共に、周りにはピンクの棘が見えていた。

 視線を下に移すと、地面を這っていたピルと思われる物体から突き出ていた棘の先が、彼女の首を突いていた。


 「いっ......!?」


 驚きで言葉が出ないまま、反射で後ろに大きく下がった。

 少しの間頭が真っ白になった。


 「あ......危なかった......」


 メアリーは能力を解除すると、大きくため息を吐いた。

 首の突かれた部分を触ってみると、指の部分に血がダラリとついていた。

 腕とかにも、切り傷がいくつか出来ている。

 もしミカが言ってくれなかったと思うと、今でもゾッとする。


 「......ちっ、惜しかったのだ」


 ピルは舌打ちをしつつ、棘だらけの身体を緩やかな形状に戻す。

 と思えば、今度は地面に潜り込んだ。

 今度は『透過』の能力を使うのだろうか。


 「ど、どこだ......」


 さっきの恐怖で、メアリーは少々焦りと怯えを伴っている。

 いつ襲ってくるか分からないという怖さは、緊張を以上に増大させる。

 目を過剰なほどに動かしている内、自分の足元に影が見えた。

 地面から這い出てきたと確信した。


 「下か!?」

 「上だ」


 ピルの声ではっと上を向くと、頭上に先のとがった物体があった。

 メアリーは時間を止めると、そのままで体を後ろにかわす。

 攻撃に失敗したドリルは地面にひびを入れて突き刺さる。

 そののちに、またもとのスライム状態へと戻る。


 「どうだ、怖かったか?」

 「なっ......!」


 図星を突かれただけに、余計に腹が立つ。

 メアリーを煽ったピルはまたしても透明になる。


 「くそ、くそ......!」


 全く持って対処の仕様がない。

 ナイフ攻撃も効果は薄い。

 このままではやられていくのは時間の問題であった。

 メアリーは何とか攻略法を見出そうとした時、たまたま近くに、ピルがはじき出したナイフの一本があった。

 そのナイフの側面に、一瞬何かが通り過ぎる影が見えた。


 「......今、何かが......」


 何だろうかと疑問に思っていると、手に持っているナイフに何かが映っていた。

 そのナイフを見ると、ピルが体を大剣に変形させて、今にも横に振り払おうと溜めているところだった。


 「は!?」


 メアリーは混乱の中、とりあえず即座に時を止める。

 その跡に後ろに向いてみると、何とピルの姿が見えないのであった。

 しかももう一回ナイフを見てみると、やはりピルの姿が映っている。

 一体全体どうなってるのか


 「これって......」


 メアリーは試しに、後ろに目を向けながら時止めを解除すると、間もなくピルが透明化を解除し、姿を現した。

 ナイフに写っていたのとまったく同じ体勢であった。

 予想通り、ピルは横に振り払うように、メアリーの腹めがけて大剣を大きく一振りしてきた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る