第百三五話 事実
作戦会議が終わり、今会議室を出たところだ。
これからイザベルのいる家に帰るところだ。
「やっぱり、あのへんなエネミーはアービターなのかな......」
と、数日前のイザベルと共闘したあの時を振り返る。
あの、同じようなエネミーをあの場で量産していた不気味な生物も、アービターのであるには間違いない。
あれは生物というか、エネミーとあまりにもかけ離れている。
(エネミーってすごいというか、なんというか......)
敵ながら心中感心していたら、「よお、アシュリー」と、ハスキーな女性の声が聞こえた。
誰なのかは分かる、アシュリーは半目で彼女を見ると、やはりアイラであった。
ニヤニヤといやらしい顔を浮かべていて、からかおうとしているのは透けて見えてる。
「ララと一緒に行動するって?」
こういうことだろうとは思っていた。
会議の中で、グループ、或いは個人で行動するメンバーが言い伝えられたのだが、その時にどういうことか、アシュリーとララがともに行動することになった。
「......それがどうした」
「良かったぁじゃないか。貴様の愛おしい少女だぜ?」
「は? 何だよそれ」
当然本心ではそんなことは思っていない。
むしろちょっとうれしかった自分がどこかにいた。
けど、そんなことはとてもじゃないが恥ずかしくて口に出せるものではない。
なので、ちょっとテンパりながらも必死に逃げようと試みる。
「ほう、ツンデレか」
「デレてないし。ていうか、お前会長に
「知らんな」
アイラは首を横に傾けて、その際に「フフッ」とかすかに笑い声も聞こえた。
見え見えの、、隠す気のない、というかむしろ、やったということをアシュリーに悟らせるためにわざとしているようにしか思えないようなあからさまな態度をとっていた。
結構イライラする。
「とまれ、今度の作戦一緒にがんばれ。私とは別行動だけどな」
アイラはそれを言ってアシュリーの横切る際に、彼の肩を右手でポンと叩く。
(なんで、なんでアイラはそこまでしてララと僕を......?)
前から疑問に思っていた。
このアイラの今までの行動は、どうもただ単にからかっているわけではないように感じる。
確かにララとアイラは昔から親交はあったとは聞くが、それにしたっておかしいとしか思えなかった。
(何かあるに違いない!)
苛立ちが後押しして、遂にそのことについて問いただそうと決心すると、肩から手を放したばかりのアイラの右手首をガッチリと掴んだ。
「なあアイラ、なんでそんなにララと僕を引っ付けようとするんだ? お前の行動はからかいにしても異常だ。ララか僕に特別な感情でも抱いているのか?」
アシュリーがそう言ったら、アシュリーに抵抗して右手首に力が入っていたアイラの手が途端に脱力した。
気味が悪くって思わず手を放すと、無気力に垂れ下がった。
「......そうか、貴様にもそろそろ言わないといけないのか......なら、一応一つ問おう」
そう重たく言った後に振り返ったアイラの表情から笑みは完全になかった。
アシュリーを鋭くにらみ、いつになく真剣だった。
作っているのなら決して出せないような、そんな威圧感があった。
「......貴様は、ララを愛しているか?」
「え......」
すごくシリアスな雰囲気に変わったのは明らかだった。
良くは分からないが、余程深刻なのが伝わってくる、
いつもなら否定を貫き通すのだが、この時ばかりはそんなことができる訳もなく、目を泳がせながらも最終的にはアイラと面向かう。
「う、うん、愛してるよ。すごく......」
「......やはり偽りではないようだな。なら良かった、貴様にはこの話を聞く資格がある」
アイラは安心したのか、表情をちょっと解いて、若干微笑む。
「......私とララは前から知り合いだったのは貴様も知っているだろう。5年前だったかな。一緒にどこかに遊びに行こうという約束をしていた。だが約束場所には来ることはなかった。不審に思った私は、周りを必死に探して、やっと見つけた。けど、奴は......」
そこで間を開けて、しばらく俯く。
アイラと言うものがこの期に及んで事実が口から出てこないというのは、よっぽどララが酷い目にあったのだろう。
だがそれのおかげで聞く覚悟はできた。
アイラは二歩アシュリーの前に近づいて、こう一言、呟いた。
「奴は......犯されていたんだ」
「...........................え」
その言葉が出たのは数秒経ってからだった。
それまでは、呼吸が止まり、頭は真っ白になり、まるで自分だけ時間が凍りついたような感覚に襲われた。
その後には、小刻みな呼吸がしばらく続いた。
「男が4人取り囲んでいたんだ。しかも人間に近いエネミーだったんだ。私はそいつらを皆殺しにしたが......」
その話のことなど聞く暇がある訳がなかった。
今はララは17歳だから、5年前と言ったら......12歳?
ある程度の覚悟があったとはいえ、こんなことだとはだれが想像つくのだ。
あまりにも大きすぎてこの事実を素直に受け止めれなかった。
「......ララが、そんな......」
「ああ、ララはそんな事は無かったかのように振る舞ってはいるが、いくら何でもあんなのが忘れられるわけがねえ」
「な、なぜそれを僕に......」
「言っただろ? 『愛している』ってな」
アイラはさも当たり前のように言い放つ。
考えてるうちに吐き気までしてきた。
これが彼女の嘘であってほしいと何度も願った。
「ああ、私のワガママかも知れない。けどいつか私がララを見守れなくなるかもしれないんだ。その時は、だからさ......愛してやってくれ、ララを」
アイラはこう言うと、アシュリーを再び横切ってその場を立ち去って行った。
一方のアシュリーはボーっと立ち尽くしたままでいた。
「ララが......」
その言葉を繰り返す。
心臓が大きく脈打って、動揺しているのが分かる。
けれど、それを聞いたときにララとの距離が縮まったような気がした。
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