第七十七話 凶龍 その2

 凶龍・マルヴァード。

 絵に描いたようなそのエネミーは、歯から血を垂らしながらエドナ達を睨む。


 「すごい、なんて綺麗な......」

 

 エドナもそれに見とれていると、マルヴァードの口からは、光が漏れだしていた。


 「おいっ!!」


 黒幕さんがそう言うと、マルヴァードはそこからビームを吐き出した。

 彼はエドナらの前に立つと、


 「『殺人影キラーシャドウ!!』」


 と彼は唱え、目の前に『影』を出現させた。

 影は禍々しい雰囲気を出しながらマルヴァードのビームを飲み込み始める。


 「黒幕さん!!」

 「ペソ程ではない!」


 しかし、ペソ程の威力ではないので消滅とまではいかないが、影が一度に飲み込む量にも限界がある。


 「ぐ......そろそろ持たないぞ......!」

 「任せて!」


 エドナはそう言うと、天化し、空中に飛び立ち、天獣手から気砲を放つ。

 気泡がマルヴァードの頭部に当たると、怯んでビームを止める。

 影は龍が吐き出したビームを全て飲みきり、直後に地面へと潜り込んでいった。


 「すまん」

 「ほんと、討伐するのが勿体ないわ!」


 彼女は意気揚々としながらマルヴァードに向かって気砲を連発する。

 気砲の爆発で龍の回りに煙が立ち込める。


 「ふう、これだけ撃ち込めば少しは――」


 エドナがそう言いかけたとき、その煙がマルヴァードの翼によって払われた。

 その龍の鱗には、傷ひとつなかった。


 「!?」


 エドナが空中で狼狽していると、マルヴァードは尻尾を振り回し彼女を薙ぎ払う。

 彼女は天獣手で防御するも、薙ぎ払いの重みは強く、叩きつけられるようにして地面に足をつける。


 「......!」


 エドナが着地した所には、亀裂が入る。


 「硬いし重い......『凶』がつくだけのことはあるわね。ここは広いとはいえ室内だから、翼を使えないのが唯一の救いか......」

 「皆さん!!」


 ベンガルが叫ぶと、キューブのスタイルを唱え始める。


 「『スタイルζゼータ』」


 と言うと、キューブは形を変形させ、やがて巨大な大きな砲台へと変わる。

 そしてそれは柱で地面に固定される、固定砲台となった。


 「このスタイルは一発の破壊力は全スタイルの中で飛び抜けていますが、チャージがとんでもなく長いです。チャージが完了するまで持ちこたえてください」

 「それが効くと言う確証はあるのか?」


 黒幕さんが問う。


 「分かりませんが、凶龍に決定的なダメージを与えれる可能性があるのはこれしかないと思います!」

 

 彼はその機械のチャージを始める。


 「じゃあ、私達は気を引くとかしていれ時間を稼げばば良いのね!」

 「時間稼ぎなど必要ない」


 エドナが気合いを入れたところに水を差したのが佐助である。


 「え......」


 エドナは冷ややかな目で佐助を見る。

 先程多少の揉め事があったので仕方ないのだろうか。


 「奴は鱗が弱点だ」

 「は? いや、なに言ってるの?」


 エドナは眉をひそめる。

 黒幕さんも佐助の発言を疑問に思う。


 「どう言うことだ? 鱗の固さはさっき見ただろう」

 「良いからよく見ておけ」


 佐助は黒幕さんの言葉を一蹴すると、背中に携えてあった剣を抜刀する。

 そして彼は構えると、音を立てずにマルヴァードの背中に移動した。

 天井の光で輝く彼の刀の残像が一瞬残る。

 そして何をするかと思えば、鱗の境目に刀を入刀させた。


 「剥がれろ」


 佐助はそう言うと、鱗の周りに斬り込みを入れる。

 鱗は弾けるように剥がれる。

 マルヴァードが怯み、呻き声をあげるのと同時に、鱗が地面に落ちたときの乾いた音が響く。


 「え、なんで......!?」


 エドナはその一連の動きに狼狽える。


 「......そうか、そう言うことか」


 しかし黒幕さんはその理屈を理解する。


 「え......?」

 「物と物の接続部というものはどんなものでも脆い。それは凶龍の鱗も例外ではなかった。佐助は、それをわかっていたのだろうな」

 「......成る程ねぇ」


 彼の説明に、エドナは見直した、と言うような感じで納得する。

 そして佐助は、マルヴァードの身体中を俊足で走り回り、次々と鱗を宙にあげている。

 一般人から見れば、線が通ったら鱗が吹き飛んでいくと言う、理解不能の光景である。


 「グアア、グオオオオ......!!」


 マルヴァードが悲鳴をあげているなか、大体の鱗が剥がれた。

 すると今度は、その赤くなっている、鱗が剥がれた場所に乗る。


 「デフェンサーズの奴らの中には、犯罪者やエネミーによって血縁者を失い、復讐するために入隊したやつもいる。俺もその一人だ」


 と言うと、佐助はその場所に刀を思いっきり突き刺す。


 「グオオオオッ!!」


 マルヴァードは首をあげながら痛がる。


 「俺の集落は、壊滅され、血縁者の殆どを失った。その集落を襲った奴らこそ、クローバーだ」


 彼は刀を前に押すように斬り込みを入れる。

 そこからは血が噴き出してくる。


 「もう少しでクローバーは滅ぶ、俺の家族や友人の敵を取れるんだ! さあ、見せてくれ、貴様の無様な最後を!!」


 佐助が恨みをマルヴァードにぶつけた後、止めを刺すべく首を取ろうとする。

 しかし......


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 マルヴァードが咆哮をあげた。

 一番大きく、長い咆哮を。

 それは風をも巻き起こした。


 「!?」


 佐助が耳を塞ぎながら、マルヴァードの身体を見ていると、驚くべき光景があった。


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