第七十六話 凶龍 その1
四方をコンクリートで囲まれた広大な空間。
天井にぶら下げられてある電球のみがこの無機質な間を照らし、静寂に包まれている。
しかしその道をある程度進むと幽閉されている『凶龍』の唸り声が響いているのが聞こえる。
「う......これが、凶龍......」
クローバーの下っ端が5人、巨大な牢屋の前で立ち尽くしていた。
四肢と両翼を無数の鎖で拘束されている龍......。
見とれてしまうほどの優麗さを醸し出す白き鱗を全身に纏い、芸術とすら思えるほどの壮大な翼、荘厳かつ神々しい雰囲気を放つ顔つき......これこそが、『凶龍・マルヴァード』である。
「グウウウ......」
マルヴァードはゆっくりと、この場から解放されるのを待っているといわんばかりに唸る。
「すごい......こんなものが俺らの組織にいたなんて......」
手下の一人はその龍に圧倒される。
そして、鉄格子の扉ののカギを取り出す。
「......いいか、俺がこの牢屋を開けたら、急いで鎖をほどくぞ。いつこいつが暴れるかわからん」
「おう......」
彼らは静かに話し合い、そしてそのカギを鍵穴に入れる。
「いくぞ......」
彼は息を呑みながら鍵を回す。
ロックが解除された音がした。
「開いた......!」
大きな扉が開くが、マルヴァードは特に暴れる気配がない。
「......大丈夫......?」
「ああ、今のうちに鎖をほどくぞ」
手下達はマルヴァードの動きに警戒しながら鎖をほどこうと、牢屋の中へと入る。
すると突然である。
「グアアアアアア!!!」
マルヴァードが大きく叫ぶ。
あまりの大きさに手下達は耳を塞ぐ。
そして自らを拘束している鎖を引っ張り始める。
「やばい......!!」
マルヴァードの力は強く、鎖が次々と引きちぎられていく。
鎖が当たりあう音と共に響く壮大な咆哮は、この束縛から一秒でも速く解き放たれたいという願望が伝わってくる。
「おい、逃げるぞっ!!」
一人の手下が動揺しながら呼び掛けた頃、凶悪な龍の自由を封印する役割を持っていた鎖がすべてほどけた。
龍は解放された喜びを味わうかのような、力一杯の咆哮をあげたあと、その手下達に牙を向けた。
※ ※ ※
一方その頃。
No.12のベンガル、No.11の佐助、No.8の黒幕さん、No.4のエドナの『凶龍討伐隊』一行は、その凶龍がいる場所へと向かっていた。
「『凶龍・マルヴァード』......クローバーはその龍を飼い慣らしており、現在はペソ城のこの地下にいる......と、捕虜の手下が言っていました」
敬語でそう説明するのはベンガル。
彼は武器であるキューブが入ったショルダーバッグを抱えている。
「うわ~、薄気味悪い所......」
エドナはコンクリートと天井に電球をぶら下げただけの風景の感想を述べる。
天化はしていない。
「私と黒幕さんはこの城に来たことあるけど、こんな地下室は見なかったねぇ......」
「それどころか、ペソの魔法のせいで部屋は一室も見かけることはなかったから、俺らもこの存在を知らなかったが、まさかこんな巨大な空間を持っていたとはな......」
黒幕さんもこの空間があったことに驚きの意を述べる。。
犯人の声のように低いので、ほかの3人よりも響く。
「いや、この空間はクローバーが作ったらしいです。ここに拠点を移した時はなかったそうです」
「ほう、クローバーの建築技術も大したものだな......」
黒幕さんは顔の布をもごもごと動かしながらクローバーに感心する。
「......しかし、捕虜の言うことなんぞあてにならない。罠かもしれないぞ」
そう警戒してたのは、先程先陣を切っていた佐助である。
足音を立てないのは流石忍者といったところ。
「それなら、その罠をぶち壊すまでよ!」
佐助の言葉にエドナは余裕の笑みを浮かべる。
「フッ、これだから脳筋は困る」
「あ......?」
エドナの笑顔が一瞬で崩れた。
彼の言葉に気がふれた。
「ムム......その言い方は無いでしょ」
「いいか、罠というのは力だけで破壊できるものじゃない。それはすべて回避するか、頭脳的に破壊するか、寧ろそれを利用するのだ。お前はすぐ自分の力だけで押し切ろうとする、頭を使え」
「あのね......私には私の戦闘スタイルというものが......!」
二人が小競り合いをし始めたところで、ベンガルが止めに入る。
「ちょ、お二人とも、仲間割れはいけませんよ。これから強大なエネミーを倒すっていうのに......」
彼が二人を静止していると、奥から咆哮が聞こえてきた。
「え......!?」
その奥から見えてきたのは......クローバーの手下だ。
手下は必死になってエドナ達のところへ向かってくる。
「た、助けて、助けてくれ!!」
彼は全力疾走しながらそう訴えている。
そしてその背後から巨大な生物が迫っていた。
凶龍マルヴァードであった。
「グオウッ!!」
マルヴァードは四足で這いつくばるようにその手下を追っている。
龍は口を開けると、その牙を手下に向かわせる。
「いやだあああ!!!」
しかし、切実な叫びもむなしく、彼はマルヴァードの牙の餌食となってしまった。
トマトを潰されたかのような無残な最期であった。
その凶龍は、
「これが、『凶龍』......」
凶龍は、威嚇で大きく咆哮をする。
その姿は、怒りに満ちているように感じた。
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