天人執事
第六十五話 インターホンを押せ
ミカは彼女のイメージカラーとも言える真っ白なベッドに横になっている。
彼女の体は順調に回復してきており、なんとか動けるぐらいに動けるようにもなった。
とはいえ、未だに痛みが残っている部分もある。
(なんというか、よく生き残れたわね......)
今思うと、あれだけの傷を受けていたのに死んでいなかったことが不思議だった。
彼女の体が意外と頑丈だったことを、彼女ながら感心した。
「お嬢様、ご機嫌は如何でしょうか?」
曉はミカのそばに立って、調子を伺っている。
「ええ、大丈夫よ」
と答える。
「あとどのくらい?」
「あと1週間前後で完治するかと」
「そう......『第二次クローバー殲滅作戦』までには間に合いそうね」
アシュリーによる尋問によって、今から二週間後にE村のペソ城跡にアジトを構えているクローバーを滅ぼす作戦を実行することになった。
その構成はナンバーズノNo.15、12、11、9以上のナンバーズ全員、上級戦士十数名と、かなり大きな戦力である。
その中には、アマツやアリアスも含まれている。
「クローバーも最早、風前の灯火ですね」
と、少年のような若々しい声で言う。
「はぁ......あの下衆にもとどめを刺せるのね」
「デュルのことですか」
ミカはあそこでデュルを仕留めたかったのだが、天人によってそれは阻まれてしまった。
彼女はそれが悔しかったのだ。
「でも、その人だけに囚われて、足元を
「ええ、わかってるわ」
と、会話していると突然、ミカの部屋の電話機が鳴りだした。
(警備員からか)
警備員とは、ミカが最近雇った人々のことである。
その数は、二十人である。
「曉」
「かしこまりました」
と、曉が電話に向かっていく。
ミカが警備員を雇った理由は、デュルのような侵入者に対処させるためと、この広い豪邸を少しだけでも賑やかにしようという思いがあったからだ。
(もっとも、あのうるさい妹がいるから十分賑やかなんだけどね)
すると、曉は話し終え、受話器を下した。
「お嬢様、侵入者が現れたそうです」
「またか......」
もううんざりであった。
この伝統ある家を再び荒らされることになると思うと、体におもりが乗っかったようなだるさが襲ってくる。
しかも1ヶ月近く前にデュルが足を踏み入れたばかりだ。
「何人なの?」
「ざっと2、30人はいるとの事です。ここは私が処理していきますので、お嬢様は休んでてください」
「分かったわ......あと、『次から私の邸に入りたければインターホンを押せ。その時は丁重におもてなしをしてやる』と、伝えて頂戴」
「かしこまりました」
と、一礼して、部屋のドアを開けようとした途端、勝手にドアが勢いよく開いた。
「お、曉と、お姉様! 敵が......!」
メアリーがセミロングの黒髪を左右に揺らしながら登場。
「あ、その件はもう既に伝わっております。私は今から処理に向かおうかと思っていたところです」
「じゃあ、私もいく!」
「駄目です。妹様はお嬢様と一緒にいてください」
「むむ......」
メアリーが不満顔を暁にぶつける。
と、そこにミカが口を挟む。
「曉、メアリーも連れていきなさい」
「やったー!」
メアリーが喜ぶ一方、暁はミカを心配して言う。
「お嬢様、妹様がいらっしゃらないと危ないのでは......」
「私は大丈夫よ。一応戦えるし」
「......そうですか、ではそうさせて頂きます。妹様、二手に別れましょう」
「ほーい!」
と、もう一回礼をした後、メアリーと共にこの部屋を去っていった。
※ ※ ※
ミカ邸の廊下では、銃撃戦が鳴り止まない。
「ぐ、ぐわあっ!!」
ミカが雇った警備員はクローバーによってバタバタと倒れていく。
警備員は自動小銃で、クローバーは剣で戦っているが、クローバーは銃弾を弾く盾を装備しているため、銃弾が中々当たらない。
それだけではない、クローバーの幹部もいるのだ。
「ば、化け物めえええええ!!」
警備員の一人がその幹部に向かって銃を乱射する。
しかし、そいつは銃弾を体で弾いており、効かない。
「ウヒヒ......!」
その幹部は上半身は装甲のようなもので覆われており、下半身はムカデのような足をしているという、おぞましい体をしたエネミーだ。
エネミーは警備員に沢山の節足を動かしながら近づくと、頭を覆っている装甲についている角を警備員の心臓に突き刺した。
彼は痙攣をしながらくたばった。
「フフ......大人しくしていればいいものを、この私、キグ・ムカデに挑むとは、無謀な奴らよ」
と、警備員達を馬鹿にする。
「No.3のミカ・レヴェリッジを倒すチャンスはここしかないぞ! 弱ったあいつの息の根を止めるのだ!」
「オオー!!」
クインの呼び掛けにクローバーのメンバーが意気込んだ。
そして、再び進もうとしたときだった。
廊下の奥から、コツコツと歩く音が聞こえてきた。
「んん,,,,,,?」
みると、曉が、余裕の表情を見せながらキグ達に向かって歩いてるのが分かった。
「......他人の家で暴れまわるとは、礼儀の成っていない人たちですね」
曉はクインを罵る。
「フフフ......その服は、ミカの執事だね?」
「その通りでございます」
曉はクインの容姿に気圧されることなく返事する。
「抵抗するなら殺してやるぞ? 貴様の四肢を引き裂いて、首をもぎ取って、ミカへの土産にしてやる」
「はは、さすが、テロ組織に入っている方の思考はいちいち常軌を逸してますね」
彼はニッコリと笑う。
「......まあやってみたらいいんじゃないですか」
すると、曉の両手が黒くなっていく。
キグはそれを見て驚く。
「貴様まさか......!!」
「ああ、後、ミカお嬢様に貴方達にこう伝えろと言われました。『次から私の邸に入りたければインターホンを押せ』」
と、手を変形し終え、背中から白い翼を広げた。
「――『その時は丁重におもてなしをしてやる』と」
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