第五十七話 収容所防衛戦その5:お姐さんの実力

 「ウッス!!」


 親衛隊は祐司の命令と同時に脱獄したエネミーおよびクローバーに斬りかかっていった。

 その親衛隊の一人は、厳つい顔を前面に出しながらクローバーの一人を襲う。


 「ひっ!」


 ヤクザのような迫力に押されたのか、怯えつつも、剣を手にして抗う。

 メンバーはその剣を大男に向かって振り下げるが、左手のナックルダスターの刃で受け止められてしまう。

 そしてもう片方の刃でメンバーを豆腐のように容易く切り裂いていく。


 「ウフッ、さすが私の子達ね♡」

 

 と、祐司が感心していると後ろから影が近づいてきた。


 (あら、脱獄したエネミーかしら?)


 そのエネミーはレベル5で、最近拷問され、赤い肌は所々ただれ、醜い顔をしている。


 「グゥウゥウウ......」


 拷問されたのだから、本来は言葉を発することができるのだが、拷問が酷かった為にできなくなってしまった。

 そしてそのエネミーは、真っ赤な拳で後ろから祐司を殴ろうとする。


 「ほっ!!」


 すると祐司は振り向きざまにレイピアを勢いに乗せて振り、拳は回転をしながら飛んで行った。


 「ウゴオオアアアア!!?」


 エネミーは叫びながら右腕を庇う。

 それに構わず、祐司はレイピアの軌跡を残すほどの速さでエネミーの肉を断つ。


 「外にでちゃだめよ!」


 と、祐二はエネミーに注意をする。

 いう意味はもう無いのだが。

 そして祐司は細い刃についた血を振り払い、最後は顔の前に剣を立てて格好をつけた。


 「ウフフ、久しぶりに使ったわ。ありがとう、私の愛刀ちゃん♡」


 と、刃の切れない部分を撫でる。

 彼の能力は恭介並と人々に評されていたが、実際は恭介を優に上回るのだ。


 「さあ、残りのエネミーも片づけちゃうわよ!」


 祐司が意気込んだその直後、身体の右あたりから、何かが猛スピードで迫ってくるような感じがした。


 (来る......!!)


 と、その方向に刃を下に向けて構えてると、レイピアに突然、途轍もない衝撃が加えられた。


 (なによこの重たさは......!?)


 祐司にとっては今までに受けたことが無いような衝撃の重みだ。

 彼は両足全体を床につけて踏ん張るも、それでも地面をすりながら後退していく。



 「ぬぬぬ......!!」


 しかし徐々に力は失われていき、終には鉄の玉が地面に落ちた。


 「玉......?」


 祐司はその玉を拾い、これが自分を押していたと言うことに気づく。

 そして正面を見ると、玉を受け止めた場所の地面が衝撃波で抉れた後があり、その向こうに、撃ったと見られる人物、ハロルドがU字の形をした武器をこちらに向けていた。


 「おお、レールガンを受け止めた!」


 ハロルドが祐司を感心する。

 そして、玉を装填する仕草が見られた。


 (もう一回来るのね!)


 ハロルドはレールガンをまた祐司に向けると、次の瞬間に玉を発射した。

 祐司は予測していたので、上に飛び上がって玉を素早く避ける。

 その直後に、轟音と共に建物内が残像を出してブレた。

 玉は壁に衝突し、ヒビを入れている。


 「嘘でしょ!? あの壁はレベル6のエネミーでもヒビを入れることなんて出来ないように造られているのに!」


 祐司は威力の高さや、自分がそれを受け止めれた事に驚く。

 彼は体勢を立て直し、ハロルドと向かい合う。


 「1階から4階のエネミーの一斉脱獄......あなたが犯人ね?」

 「そうだ! 俺はハロルド・ローレンツだ! 俺の能力は磁力を発生、操る、その名も『フレミング』!!」


 と、ハロルドは不適に笑う。


 「フレミング......(フレミングの左手の法則から取ったのかしら?)」


 祐司の頭にはその法則が浮かんだが、あえて触れないことにした。


 「エネミー収容所所長、黒谷祐司、覚悟っ!!」


 と、ハロルドは武器を2つに分け、祐司に向かって行った。

 彼はその2つの棒で祐司に殴りかかる。


 「ふっ!!」


 祐司はそれをレイピアで受け止める。

 彼の目の前で止まった棒は、電気が走っているのが分かった。


 「この武器はレールガンにもなるし打撃物にもなる。俺はこれを『レンツ』と読んでいる。そして今はモーターで発電し、帯電させているのだ! 一発でも受けたらお前は動けない!!」

 「じゃあ一発も受けなければ良いのね」

 

 と豪語する。

 

 「やってみろ!!」

 

 そこから暫く激しい攻防が続いた。

 そこには不思議とエネミーも寄ってこなかった。

 最初は互角の戦いを展開していたが、時間が経つにつれて徐々に流れは祐司に向きつつあった。

 両者共に1回も攻撃は当たっていないが、


 「はぁ......はぁ......」


 ハロルドは息切れを起こしている一方。


  「フッ、続かないのね」


 祐司はまだ余裕があった。

 

 「これならどうだ!」


 と、ハロルドはレンツの先を祐司に向けた。


 「電気放出!!」


 レンツから電撃が繰り出され、祐司を襲う。


 「とうとう自棄になったのかしら」


 と、ハロルドを痛々しく思いながら、電撃を冷静に避けつつ、ハロルドに近づいていく。


 「く、来るなああああ!!」


 しかし、彼の叫びは通じず、祐司はレイピアでレンツの周りに閃光を走らせた後、彼の背後に立った。

 少し遅れて、ハロルドのレンツが分解されていった。


 「......!?」


 ハロルドは言葉も出ない。

 そして、祐司は彼の頭の後ろにレイピアの先を突きつけた。


 「......」


 ハロルドは恐怖からなのか、動かない。

 後ろを向いているため表情は分からないが、大体想像はついた。


 「......エレベーター、行ったらどうかしら」

 「え?」


 ハロルドは一歩下がりながら祐司の方を向いた。

 彼は顔全体に汗をかいている。

 かなり怯えていたのが分かった。


 「あなたのこと、気に入ったわ」


 と、口紅を塗ってある唇で笑う。


 「......は、はは」


 ハロルドは顔をひきつらせながらも笑う。


 「それで助けた気になってるんじゃないぞ!!」


 と、ハロルドはエレベーターに向かって一直線に走っていった。

 

 「ええ、勿論よ」


 ハロルドはエレベーターのボタンを押し、エレベーターが降りてくるのを待っている。

 その最中、祐司の親衛隊がハロルドに向かってくる。


 「お止めなさい!!」


 と、祐司が止めに入る。


 「ウッス......」


 彼は顔をしかめながらも、祐司の指示に従った。

 そして、エレベーターが降りた。


  「ひひっ、命拾いしたぜ......」


 鉄の扉が開いた。

 

 「あ......?」


 絶望の底に叩き落とされたかのような声をだした。

 そこには、数人の職員が、自動小銃の銃口をハロルドに向けている。

 祐司は軽蔑の眼差しでハロルドの背中を睨み付ける。

 そして、彼はレイピアを一振りし、職員に合図を送る。


 「――あなたを助けようなんて、思ってないわよ」


 職員は一斉に弾丸をハロルドに入れる。

 火薬が炸裂する音と共にハロルドの肉片や血が飛び散る。


 「貴方の事なんて、大っ嫌いよっ!!」

 




 

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