第五十六話 P市南部攻略作戦その3:姉弟
P市南部攻略作戦二日目。
一日目が終わった段階で、奪還できた地域は約20パーセントとされている。
アシュリー班は、クローバーとの戦闘で、死者3人、負傷者7人となっている。
「ピッ、ピピッ」
朝の代名詞である鳥の鳴き声が病室に響く。
しかし、その鳥も、彼女らが昨日死者を出すほどの戦闘を繰り広げたということなんて、考えもしていないだろう。
「う......う~」
アリアスはたった今起きたところだ。
「......はぁ」
取れきれていない疲れが両肩に乗っかっている。
予想よりもきれいだったとはいえ所詮は廃墟のベッド。
寝心地はお世辞にも言いとは言えなかった。
そしてそれは、ほかの戦士も同じだったようだ。
「う.....首が......寝違えた......」
昨日、琳に手当てをしてもらった男が首を左右に曲げながら言った。
「なんて寝心地の悪さだ。疲れは取れないし、足痛いし......」
「別に良いじゃない。あんたはもう戦うことは無いんだし」
彼はもうじき、別の医療施設に送られることになる。
境界から病院までの安全が確保されたため、そこから救急車や援軍を送り込むことが出来るようになった。
アリアスは携帯食料を食べると、指定された時刻に一階のエントランスへ向かった。
そこには、アシュリーや、他の戦士がいた。
戦士の中には、見慣れない人もいるが、これらは援軍の戦士達だ。
この人達は予告もなく、突然役員から指令を受けて来たのだ。
(かなり多いわね)
アシュリー班は新たに10人加わり、総勢31人となった。
その中でアリアスはエントランスのスペースの狭さに不満を抱いていると、
「さてと、皆集まったようだな」
アシュリーが班員の前に立った。
班員はアリアス含めて皆アシュリーの方に向いた。
ドアから差し込む日光がアシュリーを照らし、その姿は勇ましく思えた。
「僕らは今日、要塞を攻める」
「要塞......?」
「戦時は敵国からの侵略を防ぐための防衛基地、戦後もエネミーに対する最終手段という役割を担っていたんだ。最も、いずれも活躍する機会は殆ど無かったけどね」
戦時は主に核爆弾を用いた戦争だったので、この要塞が使われることはなかった。
戦後も、P市南部をエネミーが一斉に襲ったという事態が起こったが、レベル5以上のエネミーには敵わず、陥落。
P市南部の住民は北に追いやられていった。
ディフェンサーズが設立されたのはその後の出来事だ。
「だけど、あの要塞は対人にはかなり強いらしい。だからクローバーは要塞を重宝しているはず。逆に僕らが要塞を陥落させたら、僕らディフェンサーズの勝利は決定的だろう」
「アシュリーさん、私達の班だけじゃ落とすのは難しいんじゃないですか? クローバーの幹部もいるかも知れませんし......」
アリアスが質問する。
「途中でNo.13の班、No.5班と合流する、僕らはその人達と要塞を攻略する......よし、それじゃあ......」
するとアシュリーは、アリアス達に背を向け、扉の方を向いた。
「行こうか、
※ ※ ※
アシュリー達の前に立ちはだかる大きな要塞。
そこには30門の砲台が設けられている。
「ブゥゥゥゥー!!」
No.13の班長、マルオは砲台から放たれた弾を吸い込むと、そのまま吐き出した。
その弾は要塞の砲台に直撃、砲台は破壊された。
「これで、動いているすべての砲台を壊したブゥ......」
マルオはハンカチを使い、あせで ベトベトした顔を拭く。
「少ないな......」
アシュリーは予想していたよりも攻撃が緩やかなのに拍子抜けをする。
エネミーによって破壊されたのだろうか、稼働している砲台は半分にも満たなかった。
「門を破壊しろ」
No.5の班長、デリックが遠隔操作している3メートルほどのロボットは、周りの等身大の人型ロボット15体に命令した。
するとそのロボットは要塞の門に移動すると、手をハンマーやらチェーンソーやらに変えて、破壊し始めた。
(デリックが命令して動くロボットか......道理であいつの班だけ班員が少ないわけだ)
アシュリーはロボットが門を破壊する様子を暫く眺めていると、門が開いた。
ロボットがとうとう門を破壊したのだ。
「入るぞ!!」
門が開いたのと同時に戦士が門の中へ入り、そのまま要塞の中へと突撃していった。
「僕たちはこっちだ」
要塞の中に入ると再び班ごとに分かれた。
するといきなり待ち伏せしていたクローバーのメンバー数人が剣を使い襲ってきた。
「ぶっ!!」
戦士の一人がアシュリーの目の前で腹を突かれるが、アシュリーはそれにも動じずメンバーを切り捨てて行った。
「僕らは左翼管理室に向かう!」
その後も度々クローバーや要塞に住み着いているエネミーに遭遇したが、少ない損害で進んでいった。
そして、遂に左翼管理室の扉についた。
アシュリーがその扉を着いたと同時に開けると、その管理席に、イザベルが鎌を担ぎながらアシュリーに背を向けて座っている。
「......お仲間を連れて登場したのね」
イザベルは椅子をくるっと回転させ、アシュリーのほうを向く。
顔はフードを被っており、顔は良く見えないが、微笑している唇は見ることができた。
「......下がっていろ」
アシュリーは班員たちを止めておき、少しだけ、イザベルに近づいた。
「東京銀行以来......かしらね」
「ああ、そうだね......で、これが最後になるわけだが」
と、アシュリーはイザベルの目の前に一瞬で移動し、抜刀する構えをした。
「顔、見せてくれよ」
と言うと、彼は抜刀し、イザベルに向かって剣を振り上げた。
「!」
イザベルは剣を避けたが、その行動のせいで、顔を覆っていたフードが外れた。
「さあ、見せてもらおう......!?」
と、アシュリーがイザベルの顔を見た途端、全身が凍ったような感じがした。
「あ......あ......」
一瞬、息苦しくもなった。
彼は一歩下がった。
「はは、ばれちゃったか......」
イザベルは苦笑いを浮かべる。
「......お姉ちゃん、なんで......?」
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