第五十五話 収容所防衛戦その4:お姐さんご乱心

 「もうやだ、どうなってるの!?」


 祐司がこの阿鼻叫喚な光景を写した監視モニターを見てテンパる。

 彼が予想していた事態は、何者かが侵入し、エネミーを脱獄させるというものだったが、全く違っていた。

 誰も侵入していない、誰も操作していない。

 なのに、突然檻が開いた。

 それも、五階を除いた全ての牢屋が、一斉に。


 「だけど、あそこには強力なディフェンサーズ戦士達がいっぱいいるわ。それに、五階が開いていないだけましよ」


 と、祐司が独り言を言った途端、


 「所長!」


 と、横から監視員の声が飛んできた。

 例によって、その監視員はムキムキの男性だ。


 「な、なに?」

 「ご、五階の一部の牢屋が開いています......!!」

 

 監視員の言葉を聞いた瞬間、祐司の全身が凍った。

  

 「な、なんですってえええええ!!?」


 そして彼は絶叫した。

 そして彼がモニターの一つを見ると、たしかに分厚い扉が開かれている。


 「な、なんということなの......!」


 祐司は目の前の光景が信じられなかった。

 胸がバクバクと脈拍を打ち、痛くなる。

 

 「所長、何者かが扉を開けているのが目撃できました! 恐らく侵入者の仕業かと......」


 別の監視員が祐司に目撃した情報を伝える。


 「スゥ~、ハァ~......」


 祐司は深呼吸をする。

 脈拍が少し治まった。


 (......こんなことして場合じゃないわ!)


 すると祐司は、管理室の入り口の隣に設置してある鞘からレイピアを抜いた。


 「――五階は、私が守って見せるわ!」


 ※ ※ ※


 警報音が響いている収容所の五階。

 レベル5以上のエネミーを収容するこの牢屋は特別で、格子ではなく数十センチメートルほどの分厚い扉で固く閉ざされており、開けるときは扉にあるドアノブを回して開ける。

 故に、この五階だけはエネミーが脱獄したという事態は起きていない。


 「1~4階のエネミーが脱獄したのか」

 「いやぁ、まさか起きるとは思ってなかったよ」


 二人のディフェンサーズ戦士が呑気に話している。


 「いやしかし、逆に5階に行かされて良かったよ」

 「ほんとだよ。ここは開かなかったようだし、下の階からエネミーが流れてこない限りは、俺たちに出番はないな」


 と、安心している様子。

 すると、捕獲したエネミーを移動させるためのエレベーターが開いた。


 「お、新しいエネミーか?」


 しかし、エレベーターの中にいたのは、20人程の人間だけだ。

 すると、3人の職員がその人物に近づいていった。


 「おい、これは人間用のエレベーターじゃない。次から螺旋階段を使うんだな」


 人間が使う機会があるとしたら、捕獲したエネミーを監視するぐらいである。

 それなのに人間だけというのは、不自然である。

 しかし、ディフェンサーズの戦士が間違えたと思ったのか、職員は注意だけにとどめた。


 「お、それは失礼」


 その内の、眼帯をしたハロルドは軽く謝罪をした。


 「ちょっと、用事があってね」

 「なんだ?」


 と、職員が問いかけた途端、ハロルドは背中に背負っていた巨大なU字形の武器を職員達に向けた。

 その二本のレールの間には、パチンコ玉より一回り大きいくらいの玉を載せてある。


 「――エネミー達を脱獄させることだよ」


 そういった際、ハロルドは職員に対して玉を発射した。

 玉は衝撃波で床をえぐりながら職員の一人に直撃した。


 「ぶっ」


 玉を受けた腹は大きな風穴を開け、衝撃波によってほかの職員も飛ばされる。


 「よしお前ら、牢屋を開けろ!」


 ハロルドの呼びかけに、メンバーは一斉に「おー!」と掛け声をあげ、エレベーターから飛び出していった。

 そして、エネミーが収容されている牢屋を開け始めた。


 「おらよっ!!」


 クローバーの一人が牢屋のドアノブを勢いよく回すと、扉を引いたのと同時にその場から退避する。

 そこから出てきたのは、蛇型のエネミーで、尻尾がいくつにもわかれており、先が鋭い刃物のようになっている。

 レベルは6だ。


 「シュルル......」


 そのエネミーはやっと出られたといわんばかりの舌なめずりをする。


 「くそっ、何もしなくて良かったと思ったのに!」


 さっき喋っていた戦士がそのエネミーに仕掛けていくが、エネミーはその攻撃を素早く避けると、その鋭い尻尾で彼のすねを切った。


 「い......!!」


 戦士は足を崩して倒れこんだ。

 そしてエネミーがとどめを刺すかと思いきや、そのまま素早く螺旋階段を上がっていった。


 「あ、た、助かった......?」


 と思ったのも束の間、後ろから歩く音が響いてきた。


 「あはははあ、外だああああ!!」


 そのエネミーは牢屋から出られた喜びを爆発させた。

 そのエネミーの名はホーモン。鬼のような姿をしており、二本の角を生やし、下顎の牙が二本飛び出している。

 レベルは5。


 「今までこのホーモン様をあんな狭いところに閉じ込めた上に、散々痛めつけやがってぇ、許せええん!!」


 ホーモンはかなり憤慨した様子だ。

 すると、すねを着られた戦士へと大きい手を伸ばし始めた。


 「ひっ!!」


 戦士は怯えながら手を使って後ずさりをする。


 「人間へ復讐をしてやる! まずは貴様か――」


 その時、ホーモンの体のど真ん中を閃光が走った。

 

  「るえぇ」

 

 ホーモンの体は閃光を境目に真っ二つに割れた。

 そしてその先には、ホーモンを割いたと思われる祐司と、先に刃を取り付けているナックルダスターを装着している親衛隊4人がいた。

  

 「貴方たち......やっておしまい!!」

 


 


 




 


 

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