第五十二話 P市南部攻略作戦その1:進攻開始

 午後9時を回った。

 光が殆ど見えないこの暗闇の中で、『立ち入り禁止』と書かれた柵を壊す音がする。

 そして、そこからディフェンサーズの戦士が次々と南部へと進攻してきた。

 『P市南部攻略作戦』が実行されたのだ。


 この作戦の戦士の構成は、ナンバーズを班長とし、他の戦士を率いるという形である。

 『No.13班』は上級7名と下級49名、『No.12班』は上級5名と下級35名、『No.11班』は上級6名と下級28名、『No.6班』は上級5名と下級23名、『No.5班』は上級3名、下級15名、『No.2』班は上級4名、下級12名である。

 残りの上級13名、下級92名は、この立ち入り禁止の境界を守備することになる。


 「暗いな......」


 アリアスもこの作戦に参加しており、『No.6班』の一員として、アシュリーとともに行動している。

 

 (にしても、ここまで戦力をつぎ込まなくてもよかったんじゃ......)


 アリアスはこの状況を不思議に思う。

 確かに、調査によるとクローバーのメンバーとみられる人たちは数十人いたので、そこにクローバーの根城があるとディフェンサーズの上層部は思ったのだろう。

 (だが、もっと詳細に調べるべきだ。これじゃ、ほかの場所がおろそかになってしまう)


 彼女はこの戦力の大きさは過剰だと思っていたが、次第に、そうではないということを思い知らされることになる。


 「さて、僕たちはこのまま南東へ進み、病院を確保する。そして、そこで交代で監視をしながら夜を過ごす」


 アシュリーはこの日の行動内容を説明する。

 

 「あの、アシュリーさん」

 「何だ?」


 アシュリーはアリアスのほうを向いた。

 その時に、長い青髪がふわっと浮く。

 

 (相変わらず、女のような顔立ちをしているわ)


 アリアスは彼の顔を見ながら思う。

 青い髪をストレートに長くしているものだから、余計にそう見える。

 彼女も実際、初めてアシュリーを見たときは、本気で女性と思っていたのだ。

 そう思いつつも、アリアスはアシュリーに訊く。


 「なんで病院なんですか?」


 アリアスは疑問に思い彼に質問する。

 それほど重要な施設ではないのではないかと思ったからだ。


 「そこには医療器具があるはずだからだ。そこで負傷した戦士の応急手当ぐらいはできるだろう。それに、病院にはベッドがあるはずだ。ごつごつとした地面で寝るのは、お前もいやだろ」

 「はあ......」


 医療器具については納得した。

 だが、ベッドについては不服に思う部分もあった。

 かなり汚くなっているであろうベッドに、体を転がせるのには抵抗があった。

 

 (だけど、ベッドで寝るくらいなら......)


 と、自分に言い聞かせた。

 

 「よし、行こう」


 アシュリーの指示で、アリアスを含めた班員はアシュリーのあとについていった。


 作戦開始から約一時間が経過した。

 この夜の中で聞こえるのは、アシュリー班が歩を進めている音だけだ。

 アリアスは、伏兵が現れないか緊張の糸を切らさず警戒している。


 (なかなか出てこないな......)


 もう出てきてもいい頃のはずだ。

 それとも、正面からぶつかって行くのだろうか。

 しかし、いずれにせよ、この廃墟となった建造物達を使わない手はないだろう。

 すると、アリアスは疑問に思う。


 (アシュリーさんって、病院の行き先わかっているのかしら......)


 こんな暗い夜のもとで、何の手掛かりも無しに病院にたどり着くのは、第六感を持っていない限り無理だろう。

 アリアスはアシュリーに尋ねた。


 「あの......」

 「今度は何だ?」


 長い髪を揺らしながら歩いているアシュリーは、振り向かずに言った。

 

 「行き先って分かるんですか?」

 「ああ、わかるよ」

 「何でですか?」


 するとアシュリーは、「ほら」と言いながら携帯をアリアスに渡した。

 そこには、この場所を表している地図のようなものが写っていた。


 「その人の形をしたものが僕達の現在地、そしてこの旗があるところが病院だ」

 

 アシュリーは現在地を示す人間のマークを、次に目的地である病院を示す旗のマークの位置について説明した。

 しかし、その携帯に地図の機能がついていることは知っている。

 アリアスは、彼が携帯を持っていることを知らなかったのだ。

 彼が携帯を持つ素振りは見せていなかったのだ。


 すると、アシュリーに「返せ」と言われて、スッと携帯を取り上げられた。


 「何で、見ないんですか?」

 「いや、一応見ているさ。だけど、その光でクローバーに気づかれるのも嫌だから、なるべく見ないようにしている」


  と、アシュリーが理由を話していたその時、「ヒュン」という、何かがアリアスの周りを高速で通りすぎる音がした。

 それとほぼ同時に、後ろの方で悲鳴が上がった。

 見ると、その男は右肩を押さえている。


 「え――」


 そして、銃弾を発射する音が複数、あちこちで鳴ると、他の戦士が2、3人倒れた。


 「まさか......!」


 予想していた通りだった。

 アリアス達を囲んでいる建物から、2,30人程の人達が、小銃の口を彼女らに向けているのが分かった。

 奇襲だ。


 「お前達、戦闘開始だ!!」


 アシュリーの合図により、戦士は散開した。

 そしてアリアスは、建物の窓から顔を出しているクローバーのメンバーに向かって走り出すと、そのメンバーの顔を鷲掴みした。

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