第五十三話 収容所防衛作戦その3:エネミー解放
二日目の夜。
安全の為、市街地から遠く離れている場所に位置する収容所に、20人程度の集団が入り口の前に現れた。
「ほお、外の警備は無しと来たか」
左目に眼帯を装着している男、ハロルドは収容所の入り口を見て言う。
「さて、お前ら、作戦は分かっているだろうな?」
ハロルドは部下の方を向くと、作戦の内容を確認する。
「俺が『能力』を使って牢屋を開けて、そこに閉ざされている全エネミーを放つ。そして裏にあるでけえエレベーターを使い五階へ移動。そこのエネミーを放ちつつ、俺が撤収命令を出すまでこの収容所を荒らし回る!」
ハロルドは説明を終えると、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、作戦開始だ......『フレミング』」
※ ※ ※
一方その頃。
ほとんどの人々は、床に薄っぺらい布団を敷いて仮眠している中、アマツはこの収容所の監視をしている。
「あー、つまんないし、眠い」
アマツはアクビをする。
そして、周りで寝ている人達を見ると、より一層眠くなってきた。
「くそぉ、良いよなぁ、寝れるなんて......」
アマツは羨む。
すると、アマツの後ろから音がした。
「!」
アマツはビクッと驚き、後ろを見ると、昨日見た猫型のエネミーが喉を鳴らしながらこちらを睨んでいる。
さっきの音は、エネミーが格子にぶつかった音だったのだ。
「なんだ......」
アマツは安堵する。
エネミーの口を見ると、そこから
アマツは、こいつが自分を食いたがっていると言うことを一瞬で悟った。
だが、だからと言って慌てる必要は無い。
「この格子は鋼鉄以上の固さだから、そう簡単には壊れない」
エネミーを脱出させない役割を担っているこの格子は、ダイアモンド並の固さを誇り、レベル4以下で壊される事はまず無いとされている。
ちなみに、レベル5以上を収容している五階の部屋は、この格子と同じ種類の物を、金庫の扉のように厚く、隙間が無いようにして、固く閉ざしている。
そして、この格子は、電力を使って格子を開閉することができる。
牢屋の外側の横に、スイッチがある。
誤作動防止のためのカバーを外し、スイッチを押すと、スイッチの上で赤く光っているのが緑になり、格子が横に開く仕組みである。
しかし、五階の場合は手動である。
もし何らかの原因で電気トラブルが起き、格子や扉が開いた場合、レベル4以下なら対処できるがレベル5以上だと被害が大きくなる為だ。
「ほら、どうだ、食べたいか?」
アマツはそのエネミーに手を振って煽る。
エネミーはガツンガツンと、格子に頭突きをしている。
「楽しいな、これ」
と、アマツは挑発を楽しんでいる。
エネミーはアマツを喰えないことにかなり興奮しているようだ。
しかし、事態は直後に起きた。
突然、赤く光っていた光が、緑に変わり、牢屋の格子が横に開いたのだ。
「あ」
アマツは右手を挙げながら固まった。
エネミーは鋭く彼を睨む。
(なんてこった)
アマツの額からは大量の冷や汗が出てきた。
「グオオオオオオオ!!」
エネミーはアマツに襲い掛かってきた。
「うらっ!!」
アマツは突然の出来事に最初こそ動揺したものの、炎を浴びせ、冷静に対処する。
しかし、空いたのはそこだけじゃない、ほかの牢屋も次々と開いていく。
すると、収容所中に警報が大音量で鳴り響き、仮眠をとっている戦士を叩き起こした。
「うわっ!?」
周りの戦士たちはまだ状況がつかめず、多少混乱している様子。
すると、スピーカーから警報音と一緒にオカマ言葉を話す祐司の声が聞こえた。
「みんなー、侵入者よ!! みんなで協力して倒してちょうだい!! 脱走したエネミーも牢屋に連れ戻すか、無理だったら駆逐してー!!」
と、切実さが伝わってくる声で全員に呼びかけた。
収容所の職員らは「ウッス!!」と返事をするや否や、エネミーに対してナックルダスターを装備して格闘し始めた。
そして、ほとんどの戦士はエネミーと戦っている中、アマツは一人だけ、戦っていない人物を見つけた。
4階のリーダーであり、No.8のスリニアであった。
「ふわああ~......」
スリニアはあくびをしている。
「スリニアさん、戦わないと!!」
「ええ、今はまだいい......」
と、うとうとしながら言った。
(なんてマイペースな......)
アマツは呆れるほかなかった。
なぜこんな人がNo.8なのか、理解できなかった。
すると、アマツやスリニアに向かって、頭に大きな角を持ったエネミーが、その角を突き出して突進してきた。
「はっ!」
そのエネミーに気づいたアマツは、スリニアのことを放っておいてすぐに戦闘の態勢に入った。
(スリニアに気を取られている場合ではない!)
アマツが右手に炎を宿し、エネミーに向かっていこうとしたその時であった。
エネミーが彼の視界から消えた。
「な!?」
何事かと、辺りを見回すと、どす黒い巨大な手のようなものがエネミーを掴んでいた。
そしてそこにもうひとつの手が現れると、二つの手はエネミーの身体を捻り回した。
「な、何だあれ......」
エネミーの血が林檎を握り潰した時のように飛び出してくる。
よく見ると、その手は何処かから繋がっているようだ。
そこ辿ると......スリニアのパジャマシャツの下から出ていた。
「ス、スリニアさん......」
「ちょっと、やる気にやりましたぁ」
アマツはこの光景を見て驚愕する。
これが彼女が『凶悪』と呼ばれる理由なのかと思った。
......確かに、この能力も十分に強力だ。
だが、違う。
彼女が凶悪と呼ばれるのは、『もうひとつの能力』によるものだと言うことを、アマツは知ることになる。
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