第五十一話 収容所防衛戦その2:尋問室
ふわふわと空中に浮遊している女、スリニア。
彼女は目をほとんど開けず、寝ぼけているかのような言動や行動をとる。
例えば、このアマツとのやりとり。
「あの、スリニアさんですか?」
アマツは恐る恐る彼女に尋ねる。
「えー、そうですよぉ」
彼女は寝言を言っているかのように語尾を伸ばし、ゆったりとした口調で答えた。
(こいつやる気あるのか!?)
と、アマツが突っ込みたくなる。
「アマツちゃん、この子はこう見えてもとっても強いのよ」
「こう見えてって何ですかぁ~」
「ところでスリニアちゃん、アマツちゃんで皆揃ったかしら」
「そうですよぉ」
どうやらアマツで最後だったようだ。
すると、祐司は腕時計を見て驚いた。
「あら嫌だ、もう作戦始まってるじゃない!」
もうP市南部攻略作戦が始まる午後9時になったようだ。
そして、祐司は懐からマイクを取り出した。
「みんな~、もうあの作戦が始まったわよ~!」
天井にあるスピーカーから、祐司の声が聞こえる。
「今から警備開始ね~、多分数日はここでお泊まりすると思うけど、みんながんばってね~!」
アマツ達の周りにいる親衛隊や職員がほぼ同時に
「ウッス!!」
と叫んだ。
そして、ディフェンサーズの戦士も、祐司の言葉で緊張を持ち始めたのか、無駄話が少なくなったような気がした。
この警備はP市攻略作戦が終わるまで続く。
数日間はあの作戦は続くと想定されているので、夜は交代で収容所を監視することになっている。
(さて、作戦開始か)
と、アマツが気を引き締めようとしたとき、
「あ、でもアマツちゃんにはもう一個見せたい所があったんだ!」
と、祐司は顔に似合わないニコッとした笑顔でアマツを見る。
「尋問室って見たことあるかしら?」
「あ、いや、無いです」
「じゃあ、今から見せてあげるわね」
アマツは嫌な予感がしたが、取り敢えずついていくことにした。
※ ※ ※
「おらぁ、さっさと吐けやぁ!!」
アマツの嫌な予感が当たった。
彼が見たのは恐ろしい光景だった。
3人の大男の尋問官がよってたかって一体の身動きをとれなくしたエネミーを痛め付けている。
「ひいい、俺は何も知らねぇよ!」
「嘘つくんじゃねえよぉ!! お前はどこの組織と繋がっている!! クローバーかっ!?」
そう言って男は革の鞭をエネミーに打ち付けた。
「うがああ!!」
鞭の音とエネミーの叫びが室内に響き渡る。
アマツの顔面は蒼白になっていた。
「これが、尋問ですか......」
「ええ、そうよ。ここで喋れるエネミーを尋問するの。それで、たまにエネミーの組織が判明したりするのよ」
と、祐司は尋問について説明する。
だが、これは尋問じゃなくて、完全に拷問だ。
そして男達は次に、地獄の閻魔大王が舌を引っこ抜く時に使う釘抜きを手に持つ。
「ひっ、やめてくれ!!」
牙を一つ、口から少しだけはみ出しているエネミーは何をされるのか分かったのか、暴れて逃げようとする。
しかし、四肢を壁についている鎖に繋がれたエネミーは、そこから抜け出すことができない。
「口をあけろぉ!!」
男はそう言うが、エネミーは口を開けようとしない。
すると、他の男二人が、エネミーの口を無理矢理開ける。
「ああああああ、ああああああ!!!」
エネミーは開けられた口で必死に訴えるが、男はやめる気はない。
男は釘抜きをその牙に挟むと、
「そらぁっ!!」
と、牙を思いっきり引っこ抜いた。
そこからは血がピュっと飛び出る。
「ああああああああ!!?」
エネミーは鼓膜が痛くなるほど叫んだ。
アマツも、この光景には痛々しく思う。
「これ、惨いっすね......」
「そうかしら? 私、こういうの良く見てきたからもう慣れちゃったわ」
「(え......)これって、死んだらどうするんですか?」
「え、そのまま『廃棄』するわよ?」
エネミー収容所には、エネミーを殺害する『廃棄室』というものがある。
それは5階にあり、そこには巨大なシュレッダーのような物があり、そこでエネミーを殺したり、もう既に死んだエネミーを廃棄したりする。
「うわぁ......」
アマツはこのエネミーの将来を考えると、同情の気持ちすら湧いてしまう。
しかし、エネミーには人権がある訳じゃないし、これによって東京が守られているなら、この行為は仕方がないものなのかと思った。
「もう私が見せたい場所は見せたわ。じゃあ、アマツちゃん、4階に戻って良いわよ!」
「は、はい!」
アマツは、叫び声をあげているエネミーに背を向けて、さっさとその尋問室を去っていく。
そして、その最中にもちょっとずつ、収容所に魔の手が伸びていくのだった.....。
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