第四十話 恨み

 「あ、貴方......謀りましたね......!?」

 「正解」


 大金庫室の床が剣と血溜まりで半分近く埋まっている中、顔の一部が縫われている武臣が怒りに目を燃やしている様子を、アイラは軽蔑の眼差しで見る。


 「貴様らのメンバーが吐き出したんだ。それで私達は金を別の場所へ移し、私とララはお前らのメンバーの振りをしてたって訳だ」

 「こ、この卑怯者が......!!」

 「卑怯者......? ククッ」


 アイラは彼の発言に思わず吹き出してしまった。

 彼の発言は理解に苦しむ。


 「卑怯もくそもあるか? 戦いにルールなんて無いぞ」

 「お、おのれえええ!! 仲間の敵をとってくれる!!」


 と、武臣が即座に天獣手に変形させると、アイラに向かって気砲を放つ。


 「ん!」


 アイラは咄嗟に自分の回りに複数の剣を出現させ、それを盾にして光線から身を守る。

 そしてその攻撃が収まるや否や、その内の日本の剣を手に取り、反撃を仕掛ける。

 その剣は武臣を切り裂こうとするが、彼の天獣手がそれを防ぐ。


 「流石に天獣手は堅いな!」

 「それはそれは、光栄です」


 すると、武臣は二本の剣を片腕で纏めてにぎると、もう片腕で彼女の頭めがけて気砲を放とうとする。


 (!?)


 これは流石に焦ったが、すぐに頭を下に曲げ、間一髪回避した。

 そして彼女は剣を手放すと、今度はマグナム弾の銃を2丁出現させ、大きな音をたててうち始めた。

 彼はそれも天獣手で防ごうとするが、そのうちの一発が彼の左肩に命中した。


 「ぐおお......」


 武臣は呻き声を上げる。

 そして武臣は、彼女を睨み付けた。


 「もう抵抗は終わりか? 弱かったな」


 と、彼女は武臣を罵るように言った。


 「くそっ、私の妻に続いて、そして私もこの汚れた人間共に殺されるのか......」

 「妻?」

 「そうだ」


 と、武臣は自分の妻について語り始めた。


 「私の妻は親切で、顔も綺麗だったな......彼女はキリシタンだった。その時の私はキリスト教には興味が無かったが、彼女の誘いで私は入信した。そして暫くしたら私は、『神』に出会った。神のお告げはどれも的確だった。そして、時が過ぎても私と妻の愛は途切れることなく......」

 「私はお前のラブラブ夫婦の生活風景や幻聴を聞来たくて質問したんじゃないんだ。妻はなんで死んだんだ」


 アイラは武臣の話に痺れを切らし、さっさと武臣の妻の死因を問う。


 「く......これだから人間は......」

 「貴様も人間だろ」

 「いや......私は神の使いだ」

 「は?」


 武臣の発言の所々はアイラには理解しかねる。


 「私の妻は殺されたのだ!! 人間にっ!!」


 武臣は壁に大きく響くぐらいに叫んだ。


 「おそらく金品目当てだろう。奴らは彼女の首の動脈を切ったあとに、私の顔等に傷を負わせ、私は気絶した。この縫い目が証拠だ!」


 と、武臣は縫われた顔を触る。


 「そして、神は私にきう告げて下さったのだ、『クローバーという組織に入り、不完全な人類を正せ』と!」


 武臣はあまりの興奮なのか、息を切らしている

 

 「どうだ......如何にお前ら人類が汚れているかが分かったか?」


 と、武臣はアイラに問う。

 しかし、数秒の間の後に彼女の口からでたのは、


 「......フフ、フヒヒ、フハハハ......」


 と、彼を嘲る笑いだった。


 「な......笑うだと......」


 武臣の顔に血管が浮かぶ。


 「馬鹿馬鹿しい! たかが妻一人殺されたぐらいで......」


 彼女は武臣の人類を恨む理由がアホらしくすら感じた。

 と、同時にあの出来事が脳裏に蘇り、急激に怒りが込み上げてきた。

 そして、

 

 「な......良くもそんなことを......!!」

 「私なんか......」


 彼の言葉を遮るように俯いたアイラは口を開く。


 「父......母......祖父......祖母......兄......私は......家族を......一瞬で......失ったんだぞ......『貴様』みたいなエネミーのせいでなぁ!!」

 「!!」


 彼女は両目を見開き、通常の人と比べて小さい黒目を武臣に見せつけると、二丁のサブマシンガンを出現させ、彼に向かって射撃を始めた。


 「くっ......どうやら話にはならないようですね」


 そういうと武臣は、弾丸を天獣手で防ぎつつ、金庫室の扉の風穴から出て行った。


 「う......うぅ......」


 アイラは我を取り戻すと、今度は身体を崩し、嗚咽を漏らす。

 彼女はポタポタと水を落としながら、しばらくその状態が続く。

 そして、彼女はこう言う。


 「エネミーは絶対に滅ぼしてやる......一体残らずな......」

 

 


 

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