第三十九話 VS吸血鬼 その1

 一方その頃。

 東京銀行の周りの数棟のビルに、総勢数十人のディフェンサーズ戦士が潜んでいる。

 そのうちの一棟、アマツのいるビルは、彼を含めた8人の上級戦士が潜んでおり、彼らの目的は、クローバー幹部の一人、ノーラの討伐。


 「うわ、結構な数だな」


 アマツはビルの3階の窓から、クローバーの人数規模を確かめている。


 「やはり、私たちを警戒しているんでしょうね」


 隣にいるアリアスも窓を眺めている。


 「おい、あまり長く見つめているとばれるだろ。指令が来るまで隠れておけ」


 ジュールは二人に注意をする。

 

 「だけど、まさかもう俺らが待機してるなんて、クローバーのやつらは思ってないでしょうね」

 

 すると、東京銀行の玄関が破壊された音がする。

 クローバーのメンバーがどんどんと中に入っている。


 「よし、入ったな」


 ジュールたちがその様子を見届けている。


 「あとは、ナンバーズの二人が合図を出せば、俺らは複数のビルから一斉に突撃し、ノーラを討つだけだ」


 と、声を発したのは恭介だ。


 「おお、恭介さん!」


 と、ジュールは頭を下げた。

 アマツもとりあえず礼をした。


 「レベル5のノーラ・グレッツェルは東側の第一金庫室に向かっているそうだ。俺らもそこに向かう」


 そして糸目の恭介は、東京銀行を眺めながら、

 

 「さて、もうそろそろクローバーが混乱しだす筈だ。お前たち、準備はいいか?」


 恭介の呼びかけに、アマツたちは頷いた。


 (もうそろそろ始まるのか......)


 これほどまでに大規模な作戦は、大魔王ペソ以来だ。

 アマツは、今までと何か違う雰囲気に緊張していた。


 「ん」


 と、恭介が声を漏らすと、


 「ああ、わかった」


 と話す。

 どうやら通信機の相手と話しているようだ。

 と、同時に東京銀行ないが慌ただしくなった。


 「よし、入るぞ。あいつらの奇襲が成功した」


 と、恭介がほかの戦士たちに支持をする。


 「はい!!」


 と、アマツは返事をした。

 時は来た。

 もう人間を討つことに抵抗はなかった。


 ※ ※ ※


 「はっ!!」


 一人のクローバーメンバーが襲い掛かってくるのを、アマツが返り討ちにする。

 そのメンバーが吐き出した血が、鼻の近くについた。

 その匂いがアマツの鼻を刺激するが、


 (血の匂い......慣れた)


 アマツはそれに不快感を感じることはほとんどなくなった。

 

 「このっ、人数が多いな! このままじゃノーラのところへたどり着かないぞ!」


 ジュールがクローバーの人数の多さに嘆く。

 すると、アマツの目の前にメンバーが短剣で突き刺そうとする。


 (しまった!!)


 よそ見してたアマツ、この距離じゃ避けられないと確信する。

 すると、突然メンバーの頭が彼の視界から消えた。


 「え?」


 突然の出来事にほんの一瞬だけ思考が停止した。

 そして彼の前にはメンバー顔を蹴ったと思われる脚が伸びていた。

 アマツが脚の根元をたどっていくと......


 「やあ、危なかったね」


 頭が飛んで行ったのは白髪の女、サラの『刹那蹴り』によるものだということが分かった。


 「サラさん、助かりました」

 

 アマツは彼女に感謝する。


 「サラ......その異常といえるくらいの格闘力は健在か。さすが元ナンバーズといったところか」


 恭介がサラの能力を冷静に語ると、


 「そりゃどうも」


 と、軽く返事をした。


 「雑魚の相手は私がする、君たちは早くノーラのところへ行きな」

 

 と、サラは言い残してメンバーの集団へと向かっていった。


 「よし、ここはサラに任せて、先に行くぞ!」


 恭介はそういって、第一室へ向かう。

 アマツ達も彼らについて行く。


 暫く移動していると、第一金庫室についた。

 

 「おお、ここが金庫室か......」


 アマツは金庫室のドアを見て、迫力を感じた。

 大金庫室ほどではないにしろ、人二人分ほどの高さに1.5メートルほどの幅だ。

 恭介は、そのハンドルを回そうとする。

 すると、ハンドルはぐるっとまわり、扉が開いた。


 「やはり、もう先客がいたか......」


 その扉の向こうにいたのは、真っ赤なドレスを着た女性。

 そして、彼女の護衛とみられる数人のクローバーのメンバーがいる。


 「アハッ、来たわね」


 彼女は目を細くして笑う。


 「......ノーラか」


 恭介が慎重に彼女の名前を問う。


 「だったらどうするのかしら?」

 「討つ」


 と、恭介は、


 「全員かかれ!!」


 恭介がそう叫ぶと、アマツ達はノーラ達に突撃していった。


 「うおおおおお!!」


 アマツは右腕に炎を宿す。

 

 (ここはファースト・ファイアで一気に焼き尽くしたいが......)

 

 金庫室にしては広めだがファースト・ファイアを放つには狭すぎる。

 ここで放ってしまうと味方にも被害が及ぶ。

 彼は炎を手に纏わせたまま、メンバーを近接で攻撃する。


 「ぐわっ!」


 メンバーは血を出して倒れる。

 ほかのメンバーも味方の戦士によって倒されていく。


 (さて、あとはノーラだけ......!?)


 アマツがすべてのメンバーを倒し、いざノーラを倒そうと彼女のほうを振り向いた途端、恐ろしい光景を目にした。

 ......上級戦士の一人が、彼女の両肩から出ているとげのようなもので串刺しにされている。


 「アハッ♪」


 そして彼女は、刺された戦士の血を吸い始めた。


 「え......!?」


 アマツはこの光景に戦慄が走った。


 「普通のご飯もおいしいけど、やっぱり血が一番だわ♪」


 と、彼女はまるで高級ステーキでも食べているかのように喜んで飲んでいる。

 そして、彼女は顔に血を付けながら、狂気が混じったような笑顔でこういった。


 「――さあ、次のご飯はだぁれ?」


 ......彼女はまさに、『吸血鬼』であった。


 






 




 



 

 


 

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