第三十二話 マッチョの尻尾 その2

 「はぁっ!」


 アマツが宿した炎は、エルドンに向かって飛んで行く。

 エルドンはそれを避けると、炎は壁に焼け跡を残して消えていった。


 エルドンは剣をアマツに向かって振り回すが、それをアマツは避ける。


 「隙ありだ!」


 攻撃によって出来た隙に、ジュールが電撃を喰らわす。


 「うぐっ!」


 ジュールの電撃で、エルドンは痺れる。

 そしてエルドンが動けないところを、アリアスがインシネレーションを発動し、エルドンに向かって発射した。


 「!」


 インシネレーションは玄関をぶち抜いた。

 

 「おいアリアス、建物が壊れたらどうする!?」

 「ごめん、威力が高すぎたわ......」


 アリアスは発射した手を見ながら謝った。


 玄関には大きな風穴ができ、その向こうには、エルドンが両腕で体を防御する姿勢をとっていた。

 アリアスはその風穴に向かって、再びインシネレーションを放つ。

 今度は穴より幅が小さい光線だ。

 エルドンはそれを避けて、風穴の外に逃げた。


 「馬鹿な奴だ。俺らの行動範囲を広げるなんて」

 「追うぞ」


3人はエルドンを追うため、外に出る。


 「これで、思いっきり炎を出せる!」


 アマツは腕から炎を出しながら言う。


 「ああ......そうだな」


 屋根の上から声がする。

 アマツたちが振り返ると、そこにはエルドンが屋根の端に腕を組んで立っている。

 そして、その周りで何やら不気味に動いている物体が......。


 「これで俺も暴れられる!!」


 と、その物体がうねうねとした動きを止めると、彼らに向かって一直線に突っ込んできた。


 「うわっ!?」


 3人はそれを瞬時に避ける。

 赤い物体は土地面に突き刺さると、土に亀裂が入り、盛り上がった。

 物体の根元をたどると、エルドンの腰に尻尾のようについている。


 「な、なんて威力だ!」

 

 アマツは彼があんな武器を隠し持っているとは思っていなかった。

 エルドンが屋根から降りてくる。


 「あいつも能力者か、なんて面倒だ!」


 ジュールがそう叫びながら腕に電気を宿し、彼が降りてくるところを殴ろうとした。

 だがそれはエルドンの尻尾に体ごと飛ばされて失敗した。


 「グオッ!」


 飛ばされた彼は空中で態勢を立て直し、足で着地する。


 「大丈夫ですか?」

 「ああ。大したことはない。そんなことより、あのクネクネしたやつを止めないとな......」


 エルドンは尻尾を地面にバタンバタンと叩きつける。

 そのたびに地面は揺れ、砕けていく。


 「どうした、掛かってこないのか?」


 エルドンが右腕の剣を前に突き出す。

 と、その直後、アリアスがエルドンに突っ込んでいった。


 「アリアスっ!!」


 アマツは無暗に攻撃するのは危ないと思い、止めようとするが、彼女は聞かない。

 彼女は機械の拳で殴り付ける。

 しかし、エルドンの体は堅く、びくともしない。


 「ん?」


 エルドンは顔をしかめる。

 しかし、それは痛くてしかめている訳ではないのは、3人とも分かった。

 

 「!?」


 エルドンはアリアスの腕を掴み、顔面を殴ろうとする。

 そうはさせまいと、アリアスはすぐさまインシネレーションを放った。


 「 ングっ!」


 これはさすがに効いたのか、彼は光線に押されて後退りをした。

 しかし、それによる傷はほとんど見当たらない。


 「なんて堅さなの!?」

 

 アリアスはその体の強度に驚く。


 「やっぱり、ごり押しじゃ無理だ」


 結果は大体予想通りとなった。

 

 「あいつも人間だ、急所を狙え!」

 「でも急所ってどこですか!?」

 「首や頭だ、人間はそこが急所だ!」


 ジュールは自分の首を指差した。


 「首を狙えばいいんですねやりますか!」


 アマツとジュールもアリアスに加勢する。


 「3人纏めて串刺しにしてやる!!」


 エルドンは雄たけびを上げた後、尻尾を暴れさせて3人に襲い掛かる。

 アマツは不規則にうねらせている尻尾を避けながら、急所である首を狙おうとする。


 すると突然、右太腿に痛みが走る。


 「いって!!」


 尻尾があたっているわけでもないのになぜ痛いのか。

 アマツが太腿見ると、エルドン右腕についている剣による切り傷であることが分かった。

 彼は尻尾に気を取られすぎて、剣に攻撃に気づかなかったのだ。


 「尻尾だけを気を付けるんじゃねえぞ!!」


 ジュールが注意をする。


 「す、すみません!」


 アマツが太腿を押さえながらそういう。

 そして、その痛みに耐えながら、またエルドンに攻撃を仕掛ける。


 暫くすると、エルドンは疲労が溜まってきたのか、徐々に動きが鈍くなってくる。

 尻尾の勢いも弱くなったように感じた。

 すると、エルドンが突然ガクンと膝を折り曲げた。


 「やはり、すねも弱点だったか!」


 ジュールはエルドンの『弁慶の泣き所』と言われている脛に攻撃を当てていた。

 アマツはこれをチャンスだと思い、右腕に炎を纏い、指をそろえて立てた。


 「はああ!!」


 アマツはそれを

エルドンの首に突き刺した。


 「がっがは」


 エルドン口から血が噴き出る。

 しかし、エルドンも道ずれと言わんばかりに尻尾をアマツに向ける。


 「しまった!!」


 アマツは急いで右腕抜こうとするが、彼に両手で握られ、動くことができない。


 「離せっ!!」


 アマツは必死にその手を離そうとするが、アマツの力じゃ敵わない。

 そして、尻尾はアマツを一直線に襲う。


 (もうだめだ!!)


 アマツは死を覚悟して、目を瞑る。

 

 尻尾が突き刺さるような音がした。

 ああ、俺はあいつと一緒に死ぬのか......。

 しかし、痛みは未だ右太腿に走っているだけ。

 なにかと思って見れば、尻尾はアリアスの腕に刺さっていた。


 「ア、アリアス!」

 「大丈夫よ、機械だから」


 彼女は平然と鋭い尾を受け止めいている。

 直後、アマツを握っていた両手の力が急に抜けた。

 アマツはすぐに手を抜く。

 すると、エルドンは白目を剥きながら倒れた。


 「ああ......ついにやっちまった」


 彼は右手についている血を眺めながら言う。


 「何そんなに落ち込んでいるのよ」


 アリアスは刺さっている尻尾を抜く。


 「アマツ、これも平和のためだ。そう思えば少しは気持ちが和らぐだろ」


 ジュールがアマツに近よって言う。


 「平和......か」


 アマツは溜息をついた。


 「じゃあ、もう行きましょう」


 3人はエルドンの死体を残し、去ろうとする。

 アマツは、去り際に一回エルドンのほうを向いた後、去って行った。


 ※ ※ ※


 「エルドンが......」


 二人の女性が、動かないエルドンの周りに立っている。


 「首を一突きされての多量出血ってところか。こりゃひどいわ」


 紫のフードをかぶった女がしゃがんで、死体を眺めている。


 「......ディフェンサーズが、やったのか......?」


 もう一人の女性は、常に目を瞑っている。

 にも関わらず、この状況を理解している。


 「始まるわね......私たちとディフェンサーズとの、『全面戦争』が」

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