第三十三話 義妹と執事
白髪の少女は、紅茶を飲みながら読書をしている。
「......」
彼女の書斎は、壁に本がびっしりと並んでおり、ラノベから推理小説まで、彼女は種類を問わない。
第二十三話でも話したように、L市には豪邸がある。
そしてその家の主は、彼女、ミカ・レヴェリッジである。
「ふむ......」
と、ドタドタとこっちに向かって走ってくる音がした。
「お姉様~!」
と、ミカを呼ぶ声が聞こえる。
彼女はそれが誰なのか一瞬でわかった。
ドアはバタンと全開し、そこには黒髪の少女がいた。
「お、お姉様!!」
服装はミカとおそろいの彼女は、余分に大きい声で彼女を呼ぶ。
「何だメアリー......私は今読書をしているのよ」
ミカは鬱陶しく思いながら、本にしおりを挟んで閉じた。
彼女の義妹、メアリー・エドモンドは彼女の机に近づいてくる。
「殺害命令です......人間のっ!!」
メアリーは人間を殺すことに対して驚いているのか、『人間』という言葉を強調した。
「なるほど、クローバーね」
ミカは冷静に反応する。
そして彼女はは紅茶のカップを手に取り、それを静かに飲む。
「お嬢様」
と、また一人書斎の出入り口の前に現れた。
執事服を身いつけている彼、
「どうした暁」
「妹様が先程おっしゃってた伝言はディフェンサーズの役員によるものでございます」
ミカはその言葉に眉をひそめる。
「ん? クローバーの情報はサナから来るんじゃなかったのかしら?」
「知らないのですか? 役員は賛成でまとまったので、サナ様からではなく役員側から出されることになったんですよ?」
「ああ、そうだったのね」
ミカは納得すると、紅茶をソーサーの上に置いた。
「お姉様、そうやって本まみれの書斎にこもってるから情報が入ってこないんですよ?」
「うるさい」
メアリーが意地悪な表情を浮かべながらからかうのを、ミカは一瞬メアリーを睨んで言う。
「で、その本はなんですか?」
「言わないわ」
ミカはメアリーに見せまいと、本を腕で囲う。
「なんでですか? 気になります」
「この本は私の物、誰にも見せないわ。タイトルぐらいなら見せてもいいけど、本の内容は自分で買ってみなさい」
「そ、そんなぁ、いいじゃないですか」
と、メアリーがミカが抱いている本を取ろうとしたとき、彼女の右肘が紅茶の入っているティーカップに触れた。
「あ」
「!」
ミカは自分の方向に倒れていくティーカップを見て寒気が走った。
(やばい!)
ミカはすぐさま本を上に上げようとする。
本は濡れずに済みそうだが、今度は自分の服が危ない。
しかし、さすがにこれを回避するのは不可能だ。
彼女は赤い液体がカップから飛び出てくる様子を見て、服はもう無理と確信。
しかし、その液体が彼女の服や本に触れることはなかった。
見ると、メアリーが両手でティーカップを持っている。
「セ、セ~フ」
と、彼女は冷や汗と思われるものを額にかきながら言った。
彼女の右手は紅茶から3寸、左手は彼女の背中にあった。
常人ならそんな状況からティーカップから発生する洪水を防ぐことなんて無理だろう。
しかし、そんな状況にも関わらず、彼女はミカの服のピンチを救ったのだ。
「メ、メアリー......」
ミカは両腕で本を上に上げながら、彼女に殺意を沸かせた。
「ご、ごめんなさいって、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか~」
メアリーは両手を合わせながらなんとか許してもらおうとしている。
「全く、騒々しいわね.....」
ミカは本を下げて、その本に紅茶がついていないか確認する。
「お嬢様」
と、暁が口を開いた。
「なんだ」
「さっきの事ですが......対象のことを言っていませんでしたね」
「あ、そうだったわね。じゃあ話して」
暁はメモ帳を取り出し、パラパラとページをめくると、ピタっととめくるのを止めた。
「名前:デュル・クレバー、レベル:8、彼は特殊能力があるらしく、役員曰く、『能力を無効化する能力』とのことです」
「能力を無効化する能力?」
「はい。彼は、触れた物の物理攻撃以外のすべての攻撃・特殊能力を使えなくするそうです。また、身体能力自体もかなり高いので、お嬢様は苦戦を強いられるかと......」
「問題ないわ」
と、ミカは自信を持っていうと、彼女は窓を眺め始めた。
そこは、彼女の屋敷の正門が見える。
と、そこに一人の男が正門の前に立っている。
「それと、この男の殺害は今すぐに行えと役員が仰っておりました」
暁がそう言い終えたが、ミカは反応をしない。
「......どうなされましたか?」
「お姉様、どうしたのですか?」
二人が動かないミカを心配すると、ミカが微笑した。
「......いや、どうやらわざわざ外にでなくてもいいらしいわよ」
「どういうことですか?」
「見てみなさい」
彼女がそういうと、二人はその窓を覗いた。
「も、門が壊されている......」
暁は窓越しに見える門を見て驚いた。
門は中央が大きくへこみ、倒れている。
「あれは恐らく......デュルです!」
暁が少し険しい表情を浮かべが、ミカは余裕で男が玄関に向かっている所を見ている。
「......さて、返り討ちにしてやろうか」
玄関の辺りで、破壊音がした。
その音は、ミカにとって、ペソ戦よりも大きなピンチが訪れる予兆を示しているようだった。
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