第三章 クローバー

チート級の狐耳

第二十七話 フリッズの正体


 公園の噴水は太陽に照らされ輝いている。

 その噴水の水面に映っているのは、火だるまとなったエネミー......。


 「おらっ!!」


 アマツはレベル3のエネミーを炎で焼き尽くす。

 エネミーはじたばたと炎を消そうとするが、暫くして炭になった。


 「よしっ討伐完了!」


 黒いロックスーツを着ているアマツは一仕事終えて、背伸びをする。


 ペソ討伐から約1ヶ月が経った。

 アマツはみるみると成長していき、今ではレベル4のエネミーを単独で倒すことが出るほどにまで強くなっている。

 入隊当初は、強力なエネミーが出現すると、その強さに恐れ、戦いを躊躇するということもあった。

 が、今となってはそれは微塵も無い。


 「ふう」


 と、彼はため息をつく。


 「あ、アマツ君だ!」


 アマツの耳に聞き覚えのある声がした。

 彼が声のした方向に顔を向けると、狐耳をした女性が、手を大きく振っていた。


 「フリッズ」


 彼は掌にユラユラと出していた炎を消す。


 「またあったね!」


 フリッズは笑顔で言う。


 (かわいい......)


 と、アマツは内心そう思うが、そんなことを口に出せるような男では無い。


 「ん? アマツ君、顔赤いよ?」


 フリッズはアマツに歩み寄ると、アマツの顔を見てそう言う。

 顔は隠せなかったようだ。


 「いやまあ、戦いを終えたばかりだからな」


 彼は誤魔化そうとする。


 「そうなの?」

 「あ、ああ。後ろのエネミーを倒したんだ」


 フリッズは、体を横に向けて、アマツの後ろにある炭を見る。


 「あの黒いの?」


 彼女は体を真っ直ぐにし、再びアマツの方を見る。


 「ああ」

 「おお、凄いね!」


 彼女は狐耳をピコピコとさせて感心した。


 (あ~、ばれなくてよかった......)


 アマツは心を読まれなかったことに胸を撫で下ろした。


 「で、何でここに来たんだ? 俺に何か用があるのか?」

 「うん。それはね......」


 と、フリッズが用事の内容を口に出そうとした瞬間、地面がぐらぐらと揺れた。


 「うわっ何だ!?」


 噴水にヒビが入ると、直後に噴水は粉々に砕け散る。


 「うわっ水が!?」


 アマツは噴水の水がかかり、濡れた顔を拭っている。

 しかし、彼が心配しようとフリッズの方を向くと、フリッズはこの状況でも特に反応していない。

 「キャア!!」と言って涙目になるかと思っていたアマツは、少し驚いた。


 「グェゴ」


 噴き上げ来る水と共に登場したエネミーは、カエルの様な姿をしている。


 「また戦わないといけないのか......」


 アマツはだるそうに言う。

 

 「フリッズ、下がっとけ」

 「うん」


 フリッズは小走りで木に隠れた。

 アマツがそれを見届け、エネミーのほうに向かと、目の前にピンクの物体が。


 「!?」


 彼はそれを避けると、空中で火炎放射を放つ。

 エネミーはそれを受けるが、びくともしない。


 「効かない!?」


 と、彼は不思議に思ったが、彼は噴水の雨を被っているので、炎はあまり効果がないことが分かった。

 それに、未だに水はアマツとエネミーの周りをびしょびしょに濡らし続けているので、炎の威力そのものが弱まっているのだ。


 (ここは戦いの場所を変えた方が良さそうだな......)


 アマツは、噴水から遠ざかろうとする。

 が、彼の右腕に、ヌメヌメとしたピンク色の舌が巻き付いてきた。


 「ぬわっ!?」


 彼はそれに引っ張られる。

 後ろからされたので声を出して驚いた。


 「グェェゴ」


 エネミーはその舌で彼を引っ張り続ける。


 (こいつ......この場から移動させない気だ!)


 彼はエネミーの行動をそう思った。

 アマツもその舌を引っ張って対抗しようとするが、エネミーの力が強くて敵わない。


 「うわっ!」


 彼は水たまりのできた地面を滑って転倒した。

 かれはそのままずるずるとエネミーの前に引っ張られていく。


 「このっ!」


 彼は掴まれている右手から炎をだすが、怯む様子はない。

 彼の目には、大きなエネミーの口が映っていた。


 「くそっこんなくさそうな口の中に入ってたまるか!!」


 アマツがそうやって見苦しいくらいにもがいていると、突然舌が軽くなった。

 エネミーは悲鳴をあげている。


 「!?」


 アマツは反動で尻餅をついた。

 右腕に巻き付いていた舌を離すと、舌はビクビクとおごめいている。


 アマツはそれを不気味に思いながら顔をあげると、そこには棘のようなものが地面から出ていた。

 木の根のような質感を持っているが、色は真っ黒だ。

 

 「グガアア!!」


 エネミーが口を押さえながら悶えていると、棘の先がエネミーに向いた。

 直後、それはエネミーの脳天を貫いた。

 

 「えっ」


 棘がエネミーの頭から抜けると、エネミーはぶち抜かれた頭から血を飛び散らせながら倒れた。


 「え?」


 アマツはどうなってるのか理解出来なかった。


 「危なかったわね」


 と、気の向こうからフリッズの声が聞こえた。


 「フ、フリッズ......お前がやったのか?」

 「ま、まあね......」


 フリッズは少し躊躇ためらうようにして言う。

 アマツは未だに開いた口が塞がらない。


 アマツは、このか弱そうな狐耳の彼女が『No.1』に君臨しているとういことを、後に彼女自身の口から、やっとわかるのであった。


 

 


 


 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る