第二十八話 ビール泥棒

 「ほ、本当に申し訳ございませんでしたっ!!」


 アマツは丁寧に土下座をしている。

 その正面にいるのはフリッズ......いや、フリッズというのは偽名だ。

 本当の名は、『サナ・アストル』。

 

 「いやいや、別にいいって!」


 サナはアマツの反応に困っている様子だ。


 「し、しかし、あの今までの無礼は......!」

 「大丈夫だって、気にしてないわよ! それに今更敬語にしなくてもいいわよ! ほら、顔を上げて!」


 彼女はアマツに顔を上げるよう促す。

 アマツは、彼女がNo.1とは知らずに、ため口などを彼女に使っていた。

 だが、それを知った瞬間、このてのひら返しである。


 アマツは上半身を上げ、そのまま正座した。


 「ま、まさか、あなたがNo.1だったなんて......」

 「ふふ、本当はこの時にいうつもりだったんだけどね......」


 そういうと、彼女は立ち上がり、冷蔵庫のほうに向かった。


 「え、な、なにを......」


 アマツはなんとなく想像がついた。


 (この人、ビール盗む気だ......)


 案の定、彼女の手には、缶ビールがある。


 「サ、サナさん、またビールをぬす......いや、飲むんですか?」

 「うん」


 彼女は平然と答えた。


 (この人、勝手に人のもの盗んでるって自覚あるのかな......)


 アマツは彼女の行動に呆れる。


 「ね、いいでしょ、アマツ?」


 彼女は笑ってねだる。

 もし彼女がフリッズだったら、全力で断っていただろう。

 だが、彼女はサナだ。


 「......いいですよ」


 彼は承諾せざるを得なかった。


 「やった♪」


 サナは早速缶ビールを開けた。

 彼女はそれに口をつけかけて、


 「あ、あと敬語禁止ね」


 といった後、ビールを飲み始める。


 「う、うん......」


 彼は遠慮気味に、再びため口に戻す。


 「......で、いくつか質問があるんだけど」

 「ん?」


 サナは机にビールを置き、正座をする。

 


 「なんでフリッズなんて偽名使ってたんだ?」

 「いや、もし知っていたらちょっとやばいかなって」

 「でも、それがさっきので無駄になったな」

 「あはは、そうだね......」


 サ彼女は、後頭部に手を置いた。


 「あと、最初会った時、ぶつかったのはわざと?」

 「ええ、わざとよ」

 「声かければ良かったのに」

 「なんか、いやだったのよ......」

 

 彼女はエヘヘと笑う。


 「なんで俺に会おうと思ったの?」

 「上級戦士での合格者だったから、興味があって」

 「じゃあ、アリアスも?」

 「ええ、アリアスにもよ。ちなみに、まだフリッズって名前でやっているから、いつかは明かすつもりよ」

 「そうか......で、あと一つなんだが......」


 彼は少し間を置いた。


 「なんで、狐耳なんだ?」

 「え? 前言ってなかったっけ?」


 サナは頭の上についてる耳を触る。


 「神様からもらった?」

 「そうだよ」

 「え?」

 「ん?」


 アマツは首を傾げ、サナはその反応を不思議そうに見ている。


 「あれ冗談じゃないの?」

 「冗談じゃないわよ。事故で一回死んだら、神様が来て『お前に強力な力と狐耳を授けよう』って言って。なんで狐耳がついてきたのかは分からないけど......」


 サナは机に置いてあった缶ビールを持つと、それに口をつけた。


 「で、それであの力と狐耳がついてきたってこと?」

 「そう」

 「ええ......」


 アマツはそれが信じられなかった。

 彼は神様がいるなんてことまったく信じていないので、尚更だ。


 「まさか、本当にそうだったなんて......」

 「なかなか信じてくれないのよねぇ......」


 彼女は困ったというような表情で溜息をついた。


 「......あ、そうだ、私これ話すために来たんだ!」


 サナははっと思い出したかのように、手を合わせた。


 「おいおい、忘れるなよ......」

 「あはは、ごめんごめん」


 サナは照れたように笑う。


 「えーでは、本題に入ろうか」


 彼女はオホンと、咳ばらいをした。


 「えっと......」

 「グオオオオオオオ!!」


 と、彼女が話そうとした途端、空から咆哮が聞こえた。


 「え!?」


 と、アマツは外の窓を開けると、そこにはドラゴンのようなエネミーが浮いていた。


 「うわ、こんな時に! しかも強そうだし!」


 同時に、サイレンもなっている。


 『ただ今、T市にエネミーが現れました。レベルは6です。避難してください』


 「え、レベル6!? 19区に現れたペソと同レベルじゃないか!?」


 彼はそのサイレンを聞いて額から汗がどっと流れた。

 いくら彼でも、レベル6となると、恐ろしく思う。

 

 ......だが、そんなエネミー、サナにしてみれば、ただの雑魚に過ぎなかった。




 






 

 

 


 


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