第二十六話 ある二人の少女の会話

 ここ、9区は東京の東の端に位置している。

 23区の中でも比較的人口が小さく、静かな地域だ。

 この区の東の境目を越えると、放射能で汚染され、草一本生えない不毛の地帯が待っている。


 その9区の人気が無い公園のベンチで、少女二人が座っている。


 「『大魔王、討伐される』か......」


 あの戦いを載せてある新聞の記事を見ている女、アイラはそう呟く。

 

 「ナンバーズ5人をつぎ込んでの辛勝、ミカですら苦戦してたらしいな......」


 彼女は端から見れば薬でもやっているかのような鋭い目で、新聞の細かい文字を読んでいる。


 「ペソってどんなエネミーだったのかな? 一回見てみたかったなぁ~」


 呑気にそう言う彼女、ララはイチゴクレープを美味しそうに食べる。


 この一連の戦いによって、怪人のレベルが10段階に増加した。

 これは、デリックのレベル測定を元に作成され、ペソのレベルは8に相当する。


 「それに、No.13、、15、16、17が負傷した。私達ディフェンサーズも大きな被害を受けたな......ま、そう言ってもあいつらは下位だしな」


 アイラは新聞を閉じると、煙草とライターを取り出した。


 「そう言えば、もう一つ大きな出来事があったわよね?」

 「あ? ああ、サラのナンバーズ剥奪の事か?」


 アイラはライターをカチッカチッと点火を試みるが、なかなか点火しない。


  「そうそう! それそれ」


 ララはムートンブーツを履いている足をパタパタとさせながら言う。


 No.14だったサラは、最近成果が全く出せてなかったのに加え、発作なども考慮され、ナンバーズの肩書きを奪われたのだ。


 「サラも、不幸な奴......だったな......」


 アイラはライターが点火しないことに次第にそのイライラが顔に出てくる。

 が、それがライターに伝わったのか、やっと火を出してくれた。


 「よし......!」


 彼女はニヤッとしながら、その火を煙草につけた。


 「ほんとだよねぇ、あの発作さえなければもっと上に行けたかもしれないのに......」

 「寧ろ、あれで良くナンバーズに入ったよ」


 アイラは煙草の煙を口から吐き出す。

 煙は彼女の周りを漂う。


 「あーあ、19区も半壊だし、一体東京はどうなって......って臭!?」


 ララが東京の未来を思いやられていると、彼女の鼻を煙草の煙が突いた。

 彼女は鼻をつまみ、アイラと少し距離をとった。


 「くうう、クレープがまずくなっちゃう~」

 「なに文句言ってるんだ? 私のおごりで食べてるくせに」


 アイラはララの嫌悪に遠慮することなく、煙草を吸い続けている。


 「うう......あ」


 ララは地面を指差した。

 その地面は、段々と盛り上がり、そこから何かが飛び出してきた。

 エネミーだ。


 「シュルル......」


 そのエネミーは体長1メートルほどのトカゲ型のエネミーで、目は無い。

 牙は剥き出しになっており、そこから長い舌を出している。


 「ん、エネミーか」


 アイラは特に動じる様子は無く、ララはこの状況でもクリームが沢山入っているイチゴクレープを食べている。


 「......また地中から出てきたの? 最近多いわよねぇ、こういう出現パターン」


 ララはエネミーの出現パターンに文句を言う。

 直後、エネミーの舌が二人に向かって飛んできた。


 「やめろ、気持ち悪い」


 アイラはそう言うと、彼女の手から何やら銀色の物体が出てきた。

 その物体は、やがて鉄のハンドガンに変形した。

 彼女はそれを握ると、エネミーに向かって発砲する。

 ハンドガンから発射された弾丸は、エネミーの舌をはね飛ばす。


 「キエエエエ!?」

 「うるさい」


 エネミーは舌を切られ悲鳴をあげるが、銃声が鳴った直後に止んだ。

 2発目の弾はエネミーの脳天をぶち抜き、エネミーはその場で倒れた。

 だが、アイラは何発もエネミーに向かって打ち続けている。


 彼女の能力は、「錬金術」である。

 彼女は鉄に限られているが、様々な形の鉄を作り出す事ができ、剣や銃等の武器も作る事ができる。

 だが、鉄は3分で消滅してしまうのが欠点。


 暫く撃ち込んでいると、その銃は消滅した。

 3分が経過したのだ。


 ララは丁度クレープを食べ終わり、唇についているクリームを舐めた。


 「相変わらず惨かったわ......」

 「え? 惨いのは、お前も変わらないだろ?」


 アイラがそう言うと、


 「ええ? そんなこと無いよ」


 ララは苦笑いをした。


 「ま、いいや。どこか別の場所に行こうか」

 「うん!」


 アイラとララは、ベンチから立つと、どこかへ去っていった。

 残っているのは、エネミーの残骸のみとなった。

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