第五話 芸術は血飛沫だ!!

 場所はM村の渓流の辺り。

 本来なら木が大量に生えているはずなのだが、核戦争の影響か、ほとんど生えていない。


 「お、来たか。」


 黒いジャージを腰に縛らずに着ているサラが言った。


 「はい」

 「うん」


 アマツとアリアスはそういった。


 「それじゃ、そろそろやろうか」


 サラは着ていたジャージを脱ぎ、腰に縛り始めた。


 「でも......大丈夫なんですか? 私たちが本気出して」

 「別にいいよ。私が全部避けるし」

 「え?それって皮肉......?」

 「あ、そう聞こえたならごめん」


 サラは笑ってそういった。


 「それじゃ、アリアスからかかってきて!」


 サラは右手を掌を上にして手招きをした。


 「避けれるものなら......避けてみてくださいよ!!」


 アリアスはサラに飛び掛かった。

 彼女は右手でサラを殴ろうとしたが、サラに掴まれ、顔面すれすれで止まった。


 「インシネレーション!!」


 彼女はその右手からビームを出すが、それもサラに避けられる。


 「おお、すごい威力だね!」


 「ブーストパンチ!!」


 彼女は左ひじから炎を吹き出すと、その反動でサラの腹に殴りかかる。

 が、これもサラに受け流されてしまった。


「ほいほい、おしいおしい!」


 その後も何度も攻撃したが、一回もサラにあたることはなかった。


 アマツから見ても、サラの


 「はぁ、はぁ......」


 アリアスは地面に倒れこんだ。


 「ん? もう息切れ? ちょっと期待外れだったかな......?」


 そういってサラが近づくと、いきなりアリアスが起き上がり、サラの首を掴んだ。


 「な!?」

 「全部避けると言ってませんでしたっけ......?」


アリアスは怒りの形相を浮かべていた。どうやらさすがに彼女のプライドに触れたようだ。


 「さっきから私をバカにするようなことばっかり......憧れの人といえども、許さん......!」


 彼女の言葉から敬語が消えていた。


 「そういうことだったのか。はぁ......私ってなんて馬鹿なのかしら......。こんな単純な罠に引っかかるなんて......」


 サラはこの状況にも関わらず余裕な表情をしてそういった。


 (な、なんであの人走馬灯が見えてもおかしくない状況なのにあんなに余裕なんだ......?強がりか?)


 「ぐ......その表情を跡形もなく消し去ってやる!インシネレーション!!」

 「や、やめろアリアス!本当に殺す気か!?」


 アリアスの右腕からチャージをする音がアマツの耳に入った。


 (だめだ......サラさんが......)


 「はぁ、本当はこんなことしたくなかったんだけどね......」


 サラがそういった直後、アマツの目に映ったのは、呆然としているアリアス。

 そして、アリアスの右手を持っているサラだった......。


 「まあ、こうしないと私死んじゃうし、君機械だからこういうことしても大丈夫そうだし......ま、許してね!」


 サラは笑った。


 「ぐ......こいつ!」


 アリアスは残っている左手でインシネレージョンを出した。

 しかしそのビームはあたらず、アマツが気が付くと、サラはアリアスの後ろにいた。

 余裕の表情で。


 「くそ......!」


 アリアスはすかさず振り向き、左腕で殴り掛かったが、サラに左腕でおさえられた。

 そしてサラは、反対の拳をアリアスに突出し、寸止めをした。


 「ふふ、私の勝ちだね」

 「あ......ああ......」


 アリアスはその場に力なく倒れこんだ。


 「こ、これがサラさんの実力......」

 「いやー、一時はどうなることかと思ったよ。さすがにあそこは油断してたな」


 サラはまたも笑顔を見せた。


 「さて、次はアマツだね」

 「え、やっぱり俺もやるんですか?」

 「じゃなきゃ呼ぶわけないじゃん」


 そ、その時。


 「ぐおおおおおおおおお、何をやってるんだああああああ!!」


 近くからとても大きな声がした。


 「うお、誰だ!?」


 どすんどすんと歩く音が聞こえる。

 と、現れたのは、2本の角が生えた一体のエネミーと、その手下のような複数のエネミーが現れた。


 「なにかさっきからうるさいと思ってきてみたら、人間どもか! 俺はゴブリン! ここに住んでいる人間よりも遥かに強い生命体だ! 本来ならばもう少し力を蓄えるはずだったが......この際貴様らを殺したあと、このまま街に出て殺戮をしてやる! まずはこの俺の住処を荒らした貴様らを痛めつけながら殺してやる! この俺を怒らせたこと、後悔するが――」


 「ああ、分かったけど、まずはこの子の相手をしてからね」


 サラは少しあきれたような言い方でいった。


 「......何だとおおおお、舐めやがってえええええええええ!! いけ、ミニゴブリン達よ! あの生意気な女を殺してしまえ!!」


 ミニゴブリンは棍棒を持って襲いかかってきた。

 その内の一体がサラに対して棍棒を振り上げてきた。


 「サラさん、う――」


 アマツが「後ろ!」と言おうとしたとき、サラはミニゴブリンに回し蹴りをしていた。

 ミニゴブリンの頭は吹っ飛び、血飛沫が上がっている。


 「私、待ってと言ったはずなんだけどな~、聞こえなかったのかな?」

 「え、い、いつの間にサラさんの足があんなところに......?」


 すると、アリアスが起き上がってきた。

 どうやら立ち直ったようだ。


 「あれは、『刹那蹴り』......サラさんの代名詞とも言える技......」


 「ち、畜生!よくも俺のなかおえるべえぇえ」


 もう一体のミニゴブリンも敵討ちとばかりに襲ってきたが、サラは頭を掴み、引きちぎってしまった。


 「ほら、あげるよ」


サラがミニゴブリンの所にその引きちぎった頭を投げた。


 「ひっひえええええええ」


 他のミニゴブリン達は戦慄しているようだった。


 「まあいいや、先に君達と遊んでやるか、さ、何処からでもかかってきなさい」


 サラはニヤリと笑って言った。

 が、アマツにはサラの笑顔は違って見えた。

 いつもの明るい笑顔ではなく、まるであのエネミーに対して見下しているような笑顔だった。


 「い、一斉にかかれ!!」


 ミニゴブリン達はサラに突撃してきた。


 「ふふ......無駄よ」


 サラは声の音程を少し下げて言った。


 ミニゴブリン達の棍棒をサラがかわすと、素早くミニゴブリンを次々に肉塊へと変えていった。

 ミニゴブリンの攻撃を悉く回避する様子は、まるで事前に打ち合わせをしたかのような無駄のない動き。

 サラが攻撃するたびに噴き出すミニゴブリンの血飛沫は、もはや芸術。


 そして五分も経たないうちに全てのミニゴブリンが動かなくなった。


 サラは固まっているゴブリンに近寄っていく。


 「さあ、君の手下達は皆肉塊になったけど、どうする?」


 サラは表情変わらず見下すような顔で言った。


 「に、人間ごときが生意気な!!」


 ゴブリンは憤怒した。

 ゴブリンは両手に持っている棍棒をサラに振り回してきた。


 それをサラは避けたが、棍棒が当たった地面には亀裂が入った。

 ミニゴブリンよりも遥かに威力が高い。

 そしてゴブリンは、その巨体からは想像できないスピードで避けたサラを追いかけた。


 「!」


 これにはさすがのサラも少しびっくりしたようだった。


 (なんてパワー、そしてスピードなんだ、俺じゃ敵わないだろうな。......だけど)


 「ふふ、その程度なの?」

 「黙れ!!」


 ゴブリンの棍棒の攻撃をサラがひょいとかわすと、ゴブリンの腹に周りこみ、


 「『裂骨咆哮波れっこつほうこうは』!!」


 サラは両手を鉤爪のようにし、ゴブリンの腹に突きだした。


 「ぐはぁ!?」


 ゴブリンの腹はへこみ、ゴブリンは後退りをした。


 「ん、弱いやつならそのまま風穴ができるんだけどな.....」

 「ど、どういう意味だ......ぐふっ......」

 「いやいやごめんごめん、てっきりレベル1~2のエネミーかと......だって、ゲームのゴブリンは弱くてすぐ倒されるのが宿命だしね」


 サラはそう言って微笑した。

 そしてゴブリンに向けられたその黒い目は、エネミーを馬鹿にするようにも、哀れむようにも見える。


 「あ、煽ってる......」

 「それだけ余裕があるということなのよ、サラさんは」


 アリアスはサラ達の方を向きながらそう言った。


 「恐らく......もうすぐ決まるわね」


 ゴブリンは疲れきっているのに対して、サラは汗をかいている程度である。


 「う、うぐおおおおお!!」


 ゴブリンは最後の抵抗と言わんばかりにサラに突然してきた。


 「死ねええええええええええええ!!」


 ゴブリンは棍棒を何度もサラの方向に向かって叩きつけた。

 地鳴りが起きるほどの威力だ。

 辺りは煙に包まれ、2人はその中はどうなっているのかもわからない。


 そして地鳴りが止み、煙がなくなっていく。

 ゴブリンが攻撃をやめたのだ。


 「はぁ、はぁ、はぁ......」


 そこにはさっきよりもさらに疲れたように見えるゴブリンと、涼しい顔をしているサラだった。


 「サラさん、まさかあれ全部避けたのか......?」


 アマツは感心しながらも、少し恐怖しながら言った。

 もうすぐ自分と戦うことになるのだから。


 「さて、そろそろ終わらすか」

 「なにを抜かすか!」


 ゴブリンの棍棒をよけ、軽々と鳥の様に飛んだ。

 そして、サラは右手に握り拳を作った。


 「喰らえ!!」


 サラの拳は、ゴブリンの頭を正面から殴った。

 その頭は、おもいっきりへこんだ。


 「うぶおぉぉぉ......」


 ゴブリンは断末魔をあげながら倒れていった。

 そしてその動かなくなったゴブリンの顔は、見るも無惨な姿になっていた。


 「ふう、思いの外手こずったわね、恐らくもう......」


 サラは額の汗を拭いながらそう言った。


 「で、では、次は僕とですね」

 「ああやーめた。アマツのテストは中止ね」

 「ええ!?」


 アマツは拍子抜けした。


 「だって疲れたし」

 「そ、そんな......」


 アマツはがっくりとした。

 が、その中に少し安心感も出てきてしまったのは、やはりさっきの戦いのせいだろう。


 「まあまあ、またいつか戦ってあげるからさ!」

 「わ、わかりました......」

 「んじゃね」


 サラはそう言うと、颯爽と去っていった。


 「あーあ、戦いたかったなぁ......」


 アマツは溜め息をついた。


 「まあ仕方ない。それにあの人、なんか余裕なさそうだったし」

 「え? 涼しい顔してたけど?」

 「私にはそうには見えなかったけど......気のせい?」


 アリアスは首を傾げた。


 「まあいいや。とにかく帰ろう。まだ核物質が残っているなら、大変な事だ」

 「どこに向かったら抜けられるのかしら?」

 「わからないけど、サラさんの向かっていた方向に行けば行けると思う」


 2人はサラの向かっていた方向に行った。

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