ブレイン=スシ

Fm7

第1話

 2047年、ついに人類は人工培養肉のみならず、人工脳“ミニブレイン”の作成に成功した。元々は研究目的で作られたミニブレインだったが意外な需要があった。食用である。これまでヒトの脳みそは至上の珍味とされていたものの、ごく一部のマッドな美食家が隠れて食べていただけであり、一般人はブタやサルの脳みそを食べることしかできなかった。そのヒトの脳がついに合法かつ安全に食べられるようになるのだ。アメリカ人は大いに沸き立った。

 ミニブレインは濃厚かつさっぱり、舌の上でとろけるような食感が特徴的だ。この素材を活かすには中華やフレンチの濃い味付けではダメだ。アッサリした調理法こそが望ましい。やがて西アメリカの人々は辿り着いた。ブレイン=スシだ。ブレイン=スシは素材の繊細な味を楽しむため、軍艦巻きスタイルだが海苔を使わない。形を崩さずシャリと脳を一緒に握る高度な技術が要求されるためごく一部の職人しかブレイン=スシは握れなかった。


 ヤマガタは西アメリカで最高の腕を持つブレイン=スシ職人だ。彼の一挙一動でミニブレイン培養企業の株価が上下する。ある日彼はミニブレインのシワの数が昔よりも増えていることに気づいた。(気味が悪い・・・まるでミニブレインが進化しているようだ・・・)しかしシワの数と脳の味が相関することを知っていたヤマガタは、この変化は企業努力によるものだと好意的に解釈し、増え続ける脳のシワを横目にスシを握り続けた。


 ミニブレインのシワの数がヒトのそれと変わらなくなった頃、西アメリカ中のブレイン=スシ職人が一斉に不思議な声を聞いた。

        「ツギハ オマエガ スシ ニ ナルンダヨ!!」

 まだ人々は気づいていないのだ。ミニブレインが培養槽の中で進化していることを。ブレイン=スシを食べることにより培養ステムニューロンが生きたまま人間に侵入してしまうことを。西アメリカ史上最大のバイオハザードが幕を開けた。

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