第11話 ブラコンと本命チョコ



 風邪をひいた。

 美月が無事だったのは幸いだった。

インフルかもしれなかったので隔離されていたが、週明けに病院に行って検査したら風邪だったので良かった•••。

 良かったのか?

 とりあえず薬を飲んで寝る。

 夕方に目がさめたら、蕩子さんからメッセージが届いていた。


 『お疲れ様でした。頑張ったから知恵熱かな? ウソウソ。早く治してね』


 いかにも蕩子さんらしくて、なんか少し元気が出た気がした。

 ただ、考えごとというか知的作業はさすがにできなくて、マンガすら読むのがつらかった。

 母さんが雑炊を作ってくれて、それは食べれた。月曜はそのまま薬を飲んで眠った。

 それから火、水と学校を休んだが、だいぶ良くなった気がした。

 と、思ったら亮太がインフルエンザになっていた。

 そして最悪なことに亮太から母さん、母さんから俺へと、坂井家パンデミックとなった。

 マジか•••。

 そしたら隣の麻由さんが来てくれて、一家で面倒をかけてしまった。

 ちなみに、俺の印象だけど、インフルより風邪の方がつらかった。インフルは薬さえ飲んだら(というか鼻から吸ったら)、1日で熱がひいて楽になったから。

 ただ、インフルの場合、医者から治癒証明っていうのをもらわなくちゃ学校に行けないので、それこそ暇を持て余していた。

 でも、これで火曜からは学校に行けるようになった。

 この時間を使って、頭の中を整理しよう。

 まるまる1週間以上休んでいるわけで、気がついたら2月になっていた。

 成田に必ず答えるって言ったからには、ちゃんと言わなくちゃな! だいぶ待たしていることになる。

 でも、ここでフと思う。

 どうやって言おう?

 学校? 成田の家? 帰り道のどっかで? うーん•••。

 よし、火曜の帰りに声かけて言おう!

 自分で逃げないように追い詰める。

 帰り道だ、うん!


   +++


 火曜、学校に行くと俺以外にもインフルエンザで休んでいるやつが数名いた。

 まさか成田も?

 放課後に成田のクラスに行こうとしたが、確認のため昼休みに見に行った。


 「あの、成田さんいる?」


 そこらへん歩いていた男子に声をかけた。そいつがクラス全員に聞こえる声で成田を呼ぶ。

 バカ! また噂とかになったら!

 呼んでもらって、お礼も言わない俺のかわりに、こっちに近づいてくる成田がその男子にお礼を言った。

 あぁ、俺って心せま•••。

 廊下で話す俺たちを遠巻きに見ている視線を感じる。

 キョドる俺を見て、成田は


 「ほっときなって。で。もう治ったんだ?」

 「ああ。って、あれ? 俺が休んでたの知ってた?」

 「まぁね、正月から一切なにも言ってこないヘタレな誰かさんに文句を言いにいったら、インフルエンザだっていうんだもん」

 「悪い•••」


 頭を下げる俺に成田はクスッと笑い、今度は真剣な顔になる。


 「答え、でたんだ?」

 「あぁ。それで今日、帰りに少し時間、もらえるかな?」

 「今日は部活。だから、そうだな~、ウチに送ってもらった時、コンビニあったの覚えてる?」


 正直、コンビニはわからなかったが、成田んまでならわかるので


 「一軒だけなら、わかるよ」

 「オーケー。じゃあ、そこに6時はどう?」

 「わかった。待ってる」


 俺たちは約束をして、わかれた。


   +++


 6時少し前に着いた俺は雑誌を立ち読みしていると


 「さーかいくん!」


 成田が横に立っていた。


 「なに? エロ本?」

 「はいはい、いっそエロ本読んでりゃよかった」


 ま、そんなことしたら、店の人に怒られるけど。


 「話せる場所に行こうか?」


 俺は成田の後ろをついていった。

 少し歩くとまわりに家がなくなって、畑が広がっているところにきた。


 「さて、聞きましょうか」


 クルッと振り向いて、成田は俺を見る。

 俺は息を吸うと


 「グダグダ言わないで、はっきり言うよ」


 成田の顔が緊張しているのがわかる。


 「俺、成田が言った通り、美月が好きだ」


 成田の表情が痛みをこらえるように、ゆがんだ。

 俺にこれ以上、顔を見せないように下を向く。

 俺は成田の次の言葉を待った。

 成田は無理やり笑いながら、


 「ほら、やっぱり私が言った通りでしょ?」

 「そうだな」

 「はぁ、なんか私、2人をくっつけるキューピーちゃんになっちゃったね」


 再び静かになる。

 成田がもう一度、口を開いた。


 「つきあってるの?」

 「いや、つきあうも、まだ俺、言ってないし」

 「はぁ? なんで? 好きなんでしょ? なんで言わないの?」


 俺が何も言えないでいると


 「もう、なによ。それじゃああきらめられないじゃない!」

 「そんなこと言われても」

 「じゃあ、言わないの?」


 俺は今の正直な気持ちを伝える。


 「成田、前に言ってたよな。あいつは俺のこと恋愛対象として見ていないって」

 「え? そういえば、うん」

 「成田の言う通り、俺なんか相手にされてないよ。でも、俺は美月を好きだから、あいつがこっちを向くように頑張るつもりだ」


 俺の言葉を聞いて、成田は肩の力を抜いた。


 「そっか、わかった。ありがとう。ちゃんと言ってくれて」

 「その、成田、俺•••」


 成田は手を上げて、俺の言葉を止めると、


 「あやまったら、怒るからね」

 「••••••。わかった」

 「あーっ、やっと4年間の思いに決着がつけられた!」


 俺に背を向け、何歩か歩いたところで、成田はクルッと振り向いた。


 「じゃあ、坂井くん」

 「成田•••」


 俺は今、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

 成田が手を振る。


 「バイバイ」


 俺も力なく手を振った。

 成田が見えなくなるまで、俺は立っていた。


   +++


 「おーっ。2人とも元気になって良かったね~」


 今日はひさしぶりのカテキョーの日だった。

 美月とは、あの遊園地以来になる。

 俺の方はこの1カ月で色々なことがあったけど、こいつはいい意味でなにも変わっていない。


 「ん? なによ?」


 俺に対してかまえる。

 俺は肩の力が抜けるのを感じた。


 「美月、バレンタインデー、チョコくれよ」


 美月は細い目を見開いて


 「自分から要求するやつ、はじめて見た」

 「ミー、俺もチョコ欲しい」

 「大丈夫。亮太きゅんのチョコはもうあるからね~」


 待て。俺のは買ってないの?

 美月が俺を見てニヤ~とする。やべえ、顔にでたか?


 「亮太きゅんだけあげるとお兄ちゃん、イジケちゃうから、仕方ないのであげようね~」


 お、おのれ~。


 「いやだぁ、お兄ちゃんコワい~。亮太くん助けて~」


 はぁ、なんで俺、美月が好きなんだろ?


   +++


 で、バレンタインデー。

 美月は玄関から入ってきた。

 って、当たり前か。


 「は~い、亮太くん! どうぞ!」

 「ありがとう、ミー。やったぁ、これで5つ目だ!」

 「え?」


 いや、そんな目で俺を見るな。うちの弟くんはモテるんだよ。

 は~、とかため息をつくんじゃない!


 「はい、洸太。あと、これ。蕩子から」

 「おお、蕩子さんからか。マジ嬉しい」

 「あ、お兄ちゃんもそれで4つだね」


 ひさしぶりに亮太からの痛恨の一撃をくらった。

 ちなみに4つのうち、2つは今もらったもので、あとは成田がくれた義理チョコと、成田の後輩ちゃんからのだった。

 成田に後輩ちゃんのチョコ、どうしたらいいのか聞いたら、


 「自分で考えろ! いい加減なことしたら、小学校時代のこと、バラすから」


 とのこと。マジか、成田。お前、コワいやつだったんだな。

 おっと、ジト目のロリメガネを忘れてた。


 「義理チョコだよ、美月からもらったのを含めてな」

 「ふーん、そんなにもらえるなら、私のなんかいらなかったんじゃないの?」


 美月の頭にポフと手を置く。


 「俺が欲しかったから、欲しいって言ったの」


 少し照れたような顔で美月は


 「そっか、じゃあ仕方ない」


 俺は思わず笑ってしまった。


   +++


 美月が家に戻ったあと。

 俺は美月からもらったチョコを見ていた。

 時計を見ると11時少し前。


 「よし」


 かけ声とともに、美月にメッセージを送る。


 『ちょっと行っていいか?』

 『いいけど』


 俺は引き出しから袋を取り出し、ベランダから美月の家のベランダに移った。

 待ってたらしく、すぐに窓を開けてくれた。


 「どうしたの?」


 美月はもう風呂にも入って、髪にタオルをまいて、パジャマ姿だった。

 寝る前だったからかメガネをかけていないバージョンだったので、俺的にはラッキーだった。


 「いや、ちょっと美月にあげたいものがあって」

 「え? なになに?」


 俺は持ってた袋を渡した。


 「え? 開けていい?」


 俺は頷いて、美月のリアクションを待つ。


 「チョコ?」

 「そう。そして義理じゃなく、本命な」

 「え? え? マジ?」


 俺は頭をかきながら、説明した。


 「美月に俺が本気だっていうのを伝えるのに、なんかいい手はないかな、って考えてたら、テレビで外国だとバレンタインに男からあげるのもありだって見て•••」


 美月はキョトン顔で俺の話を聞いている。


 「こないだ遊園地に行った時とかに告白しても、美月、本気にしてくれなさそうだったから」


 俺は美月の前に立った。

 美月は俺を見上げている。


 「俺、美月が好きだ。他のどんな女の子よりも。俺は美月のこと、お姉ちゃんじゃなくって、女の子として好きなんだ」


 俺は自分の動悸で倒れそうだったけど、美月が返事をしてくれるまで待った。


 「え? でも、待って、ごめん」


 美月は頭を下げた。

 なんか急に音がなくなった気がした。

 俺はそのまま後ずさり、美月のベッドにつまづいて腰を落とす。

 頭の中が真っ白だった。


 「あぁ、えっと、違うの」


 慌てる美月の声に俺は顔をあげる。


 「えっと、えっと、そう! 私ってショタじゃん!」

 「はい?」

 「でも、ショタじゃなくって、ブラコンだったんだよ、結局!」

 「み、美月。落ち着け」


 フーッ、フーッと言っている美月に、落ち着くように両手でまぁまぁとする。

 美月を見たら涙ぐんでいた。


 「ちょっと、落ち着こうな」


 美月を俺の横に座らせる。


 「ゆっくり話していいから」


 そして、美月はポツリポツリと話し始めた。


 「ブラコンってことを認めたくなくて、いつの間にか自分はショタだと思いこんでいて•••」


 「でも最近、それは違うことに気づいて•••」


 「私より大きくなっちゃったけど、洸太と話をしていると楽しくて•••」


 「やっぱり私、ブラコンなんだって•••」


 「でも、自分の弟に対する思いが、ちょっと普通じゃないっていうのは、わかっているから•••」


 「洸太に対しても、好きって気持ちをガマンして•••」


 「普通の幼なじみの、近所のお姉ちゃんと弟になろうって•••」


 美月の目からは、涙が流れていた。


 「なのに、洸太。お姉ちゃんじゃなくって、女の子として好きなんて言うんだもん•••」


 俺は美月の頭をポンポンとなでる。

 美月は俺を見上げて


 「すぐに男の人として、見れないかもしれないけど、ゆっくりになっちゃうかもしれないけど•••」


 美月は涙をポロポロ流しながら真剣に俺を見て


 「こんな面倒くさくても平気なら、ちょっとだけ待ってて」


 照れたように笑う。

 俺の背筋に電気が流れたような衝撃が走った。


 俺は美月の顔を手で包む。


 「洸太?」


 と、そのままキスをした。


 数秒止まっていた美月は、俺から離れるとワナワナと震えながら口をパクパクさせている。


 「これで弟じゃなくなった?」

 「き•••」

 「き?」

 「近親相姦だーっ!」


 慌てて美月の口を抑えながら、耳元で


 「でも、それって結局好きってことだろ?」


 「ーっ!」


 美月の声にならない叫びが聞こえるようだった。


 美月は俺の手から離れると


 「いきなり、こういうのは•••困る」


 真っ赤になって、下を向いてしまった。

 俺は、彼氏だろうが、弟だろうが、近親相姦だろうが、とにかく嬉しくて•••。

 美月の頭を優しく撫でた。



END

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年上の幼なじみがオタクで頭が痛い 斉藤ナオ @nao0108

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