マゲの寿司
堂エリオ
マゲの寿司
へい、マゲを。少々お待ちを…あぁ、ありました。最後の一つです。炙りますか?そのまま?一つずつにもできますから、そうしましょうか。これは良いものですよ。京物です。京にはまだ古い侍がいますから、良いマゲが取れるんです。
野蛮な寿司だと言う人もいますが、本当はそうじゃない。大抵の侍がおとなしくマゲを取らせてはくれませんから、そういう事になるというだけで…マゲが傷ついてはいけませんし、体全部を店に運ぶのは無理ですからな、首のまま運んで店で出す直前にマゲを取るわけです。たまに下手の侍が店の客の前でマゲを切らせる事もありますが、鮮度は良くても侍の格というものが劣りますから、好んで食べるのは上品でない。
実力のある侍のマゲほど旨いというのは本当です。つまり、実力のあるということは長く侍として活躍している。すると鬢付け油が染み込むんですな。それに汗が混じって、さらに斬った相手の赤い物も染み込むでしょう。それが良い。重みが違います。旦那さんに出すこれは重いですよ。
どうぞ、まず握り…どうです?たいていは命が関わっていますからな、命一つぶん、旨いのが道理です。
強い侍ほど美味しいと言いましたな。つまり、美味しいマゲほど取るのが難しい。ただでさえ侍に腕っ節では敵いませんし、ましてや高値で売れるほどのマゲを取るなんて事は…ですから、少々卑怯な手も使うわけです。巌流島の決闘や本能寺の一件なんかも…秘密ですがね。マゲの養殖という事もあったそうですが…この話は止しましょう。祟りそうだ。
では炙ったものを…召し上がってください。何も塗っていませんよ。熱で油が溶けますからな、濡れて見えるのはそれでしょう。
お愛想を。では、これほど。高いですか?値打ちのわからない人だ。マゲの寿司はどこで食べてもこれくらい取ります。払えないとなると、ネタを返していただくことになりますな。見た所、なかなかの上物を持っていらっしゃるようで…
マゲの寿司 堂エリオ @run_away_yura-tsun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。マゲの寿司の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます