41 祈り

 花園予選が幕を開けた。

 1回戦は宇部農業高校に105対0で大勝し、2回戦の下関高校戦も66対3で勝利した。バナナラグビーの精度が高くなったことの証だ。


 いよいよ周防高校との決戦を控え、学校で直前のミーティングを行った。

 まず太多が作り込んでくれたDVDを鑑賞した。蒔田あゆみが記録し続けてきた動画や画像を、太多自らが時間をかけて編集してくれたのだ。


 2月の練習、徹底したパーソナルスキル。

 4月の県大会で東萩高校に勝ち、周防高校に善戦した光景。まだこの頃は、どこか無邪気さ漂う表情でラグビーをやっている。

 6月の中国大会予選。エビラックとバナナラグビーによりチームが進化。トコが相手をぶっ飛ばすシーンが映し出される。ディフェンスの手がトコのパンツに引っかかり、半ケツが出ている画像になったとき、笑いが起こる。手にギブスをはめたトコは恥ずかしそうに頭を掻く。

 8月の合宿、公会堂の光景。テストをし、ビデオで相手を分析した。皆で作ったカレーライス、スカイプによる太多とのディスカッション。人工知能を採り入れたデータ分析、周防高校を想定した練習。それから、練習試合での予期せぬ大敗。


 ここでBGMが『ヒーロー』に切り替わる。『スクール・ウォーズ』の主題歌だ。敗戦をバネに立ち上がっていく選手たちの表情が立て続けに紹介される。

 最後は、選手1人1人に向けて、三谷と太多からのメッセージが添えられる。

 選手たちは、皆泣いている。三室戸は声を上げて泣いている。神村も浦も白石も松川も藤山もそれからトコも蒔田も、1年生たちも、全員泣いている。三谷の頬にも涙が伝う。

 再生が終了した後、今度は1人1人に手紙の入った封筒が配られる。チームメイト全員からの言葉が記された手紙だ。


神村へ

 俺は、お前にずっと嫉妬してきた。俺よりも後から入ってきたのに、かっこよく活躍する姿を見て、すげえ悔しかった。でも、お前はいつでもチームのことを考え、すごく気を遣っていることは知っている。お前がキャプテンでほんとに良かったと心から思っている。決勝戦は、俺たちに任せろ。そのためにも、周防に勝とう。お前と一緒に花園でラグビーすることが、俺の夢だ!       三室戸

 

三室戸ミム

 ミムがいつもみんなに厳しいことを言っているのは、チームの雰囲気を引き締めようとしているためだと分かっています。みんなから嫌われることを恐れずに自分の意見を言えるミムを心の奥で尊敬しています。これまでミムを助けることが出来なかった分、周防との試合では身体を張ります。絶対に勝ちましょう!     浦

       

浦へ

 寛哲ヒロサトには、これまで、めっちゃ話を聞いてもらいました。頼りないキャプテンで申し訳ないです。俺たち3年生は3人だけど、力を合わせれば、チーム全体が1つになれると思っている。特に寛哲はスリーアローズのトライゲッターだから、感謝を込めてパスを出します。死ぬほど花園に出たいです。周防の試合を最後にしたくないです。勝って、一緒に泣きたいです!     神村

 

トコ君へ

 あなたがスリーアローズに入ってくれて、チームが明るくなりました。私もあなたのおかげで部活が楽しくなりました。チームに貢献しているという喜びをもらいました。私たちは試合には出られないけど、祈ることはできます。スリーアローズが花園に行くために、ベストを尽くしましょうね! ありがとう、トコ君。   蒔田


三谷先生

 僕は、三谷先生にありがとうと思います。僕は初め日本にきたときさみしくなりました。トンガに帰りたいと思いました。三谷先生がいつも話をしてくれました。僕のきもちを分かってくれました。いつか三谷先生がよろこんでほしいです。ケガをしてごめんなさい。花園に行ったら三谷先生を胴上げします。僕の夢です。    トコ

※三谷先生、すみません、少しだけ私が日本語を直しました。変な文章かもしれませんが、トコの気持ちが伝わるといいです。(蒔田)

 

 手紙を読み終えた選手たちは、再び涙している。三谷の目からも涙がにじみ出てくる。

 この子たちのためなら自分の人生さえ捧げることができる。三谷はそう思う。

 何としてでも、この子たちと一緒に花園に出場したい。

 マグマのような熱い思いが全身を焦がす。

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