寿司ネタフルコース

ハギわら

オヤジの為のギャグを寿司屋で

 私は22歳声優業を営む女。


 人は私を容姿からハイブリッジフェアリーと呼ぶわ。まぁ、妖精のようにかわいい私のことを人はそう呼びたがるの。その気持ちは分からなくもない。だって、パーフェクトウーマンだもの、ア・タ・シ。今日は日々の疲れを労うべく、自分へのご褒美としてお寿司屋にインマイルーム。


 座席に座り、私はあがりを上品に頂く。

 お茶を飲む私って……本当にね。


「大将、イクラはだい?」


 えっ? なんですって?


 私は耳を疑った。そして、フレーズを放った男に目を移し、自分の中で自問自答が沸き起こる。まさかね……そんな使い古された化石のような言葉を使うなんて。たまたまよ……そう、たまたま。


 昭和みたいなギャグを放つ奴なんて、いないわ。

 動揺しながらも自答に辿り着き、私は首を静かに戻した。


「大将、トロ一丁。急いでお願いね。しちゃだめよ~」


 間を開けず、また!?


 偶然よ、偶然。落ち着くのよ私。

 こんなこと日常茶飯事じゃない。そうだからね、今は。


「大将、あら汁と貝を」


 ホラ見なさい。偶然も偶然。もう勘違いしちゃったじゃない。困るわ、本当そういうのー、困る。


「ズズーズー……」


 男はあら汁を音たててすすりだし――


「ぶっほぶっほ!!」


 勢いよく咽た。

 あら汁をぶちまけるなんて。まったく、モラハラよ。モ・ラ・ハ・ラ。


 サウンドハラスメントだわ。これじゃあ、オリンピックも先が思いやられるわね。

 五輪に夢中で五里霧中ってね。アハハ。ハイ、ワロスワロス。


「いけねー、いけねー。今夜は久々だから、アラぶっちまうなー」

「えっ?」


 まさか……アラ汁をぶちまける……アラをぶちまける……アラをぶっちまけて、ぶっちまう!!


 私が急ぎ視線戻す。すると余裕の笑みを浮かべ男は語りだした。


「へへへ、嬢ちゃん。隠しても無駄だぜ。俺にはわかるよ。あんた、体が自然と反応しちまってる。それが当然のようにな」

「な、何をいって!!」

「俺は寿司屋に来るのをドクターストップされててな。まぁ、ひさびさの解禁祝いだ。アラぶっても許してくれよ」

「か、勝手にすればいいでしょ!」


 気味が悪い!この男、非常に気味が悪いわ!!


「嬢ちゃん、のリクエストはある?」

「なっ!?」


 まさか……このために貝を注文していた!?しかも、寿司だけにネタをかけて!!


「いいわ、じゃあ玉子をおねがいするわ。が悪いあなたにはぴったりでしょ?」

「玉子を選ぶとは、なかなか通だな。嬢ちゃん」

「ふん。その薄汚い余裕の笑みもいまの内よ。玉子をなめちゃいけないわ。半端なギャグでは認めないわよ。玉子ネタの恐ろしさをまだわかっていないようね。これはイ問題よ」

「気味と黄身……エッグと玉子か……やるじゃねぇか、お嬢ちゃん」

「へい、玉子お待ち!」


 男は玉子を前に黙りこんでいた。それもそのはず。玉子からでるわけがない。エグイと気味は、私がもう使ってしまったもの。


「海外セレブにも人気の――」


 えっ、海外セレブ??何を言って???


 私の動揺をあざ笑うように男は静かに自分の左手の人差し指を右手で握り、


「たまごっ――」


 力いっぱい引っ張った。


「ちぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「爪剝がれて血ぃいいいいいいいいいいいいでとるぅうううううう!!」


 まさか、『っち』の一文字のために、自分の爪をはがして大量のを出して!!アホなの!?イカレテル、めちゃくちゃにイカレテル!!


「ハァハァ……」

「貴方正気なの!?血を出すために自分の爪を剥がすなんて常軌を逸してるわ!!狂ってる、貴方は狂ってる!!」

「へへへ、まだまだ」


 男はそういうと寿司屋に備え付けらた水槽に手を潜り込ませた。


「これ以上何をするというの?早く病院に――?!」


 シャコが男の右手の人差し指に強烈なパンチを繰り出した。シャコのパンチのスピードは地球上のあらゆる生物の中で一番早い。ピストルで撃たれたような痛みが走るみたいです。


「あぎゃあああああ!!」

「殴られるのは当たり前!なに水槽荒らしてんのよ!?それはシャコも怒るっつうのー!!」

「へへへ、捕まえたぜ……暴れん坊なレディーだ。さぁ、俺と踊ろうぜ」

「シャコを捕まえて何を?」

「シャルウィーダンス!!」


 踊ってる!?シャコを抱きかかえて、踊ってる!?しかも、上品なマダムを優しく包み込むように抱いて、なんて華麗なターンを決めるの!?


「これは……ダンス!シャコだけに!!」

「まだまだ、序の口だぜ。やっと体が温まってきた」

「温まって何も、もうお前の両手の人差し指が死んどるわ!!」

「ここからはスピード勝負だぜ」

「スピード勝負?」


 そこから男の怒涛の攻撃が始まった。


「ワサビがきついぜ、タコ野郎ー!」

「タコだけに!?」

「俺はイカッてる!」

「イカだけにね!」

「お先だぜ!」

「マグロだけにねー!」

「蟹だけは、してやー!」

「パワプレー!!」

「男に振られたぐらいでしてんじゃねー!!」

「ウニ尽くし、ウニ尽くしだわ!」

「ハマチにまうぜ」

「ハゥマッチ!!」

「お嬢ちゃん、ガリガリだからおあがりよ!」

「ガリとあがりね!!」


 途切れることがない怒涛の攻撃……恐ろしい、なんて恐ろしいやつなの!?


「ハァハァ……大将、最後にサーモンをひとつ」

「最後にサーモン?」


 男はおもむろにネタとシャリを分解し、シャリだけを口に入れた。


「いったい……何を?」

「これで……おすまいだ。しゃあ、けえろ」

「!?酢飯だけに……お酢とお米で、!!」


 けど、ネタが残ってるわ。どうするの!?を捨ててしまうのー!?


 男はそういうとお店を出ていった。


 一体どういうこと?サーモンを残して、しゃあ、けえろ。しゃーけえろ。しゃー、けえろ。しゃーけ、しゃけ、鮭!?


「全てが計算されていたのね……恐ろしい男。全くもって歯が立たなかった」

「お客さん、会計お願いします」

「えっ?」



《終わり》


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寿司ネタフルコース ハギわら @hagiwarau071471

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