寿司の歴史

怠惰なる人

そもそもの話

「寿司の起源をたどれば、46億年前に原始の地球が生まれて」

「そこから? 絶対寿司ないよね」

「ご存じでしたか……」


 大将は考えを巡らせる。果たしてどこから説明すべきやら。元々の顔の怖さも相まって頑固な職人である、と周りが勝手に勘違いしてくれている大将なのだが、実は人と話すのが苦手なのだ。江戸時代はファストフードだったんだよねそうなんだクスクス、などという会話に首を突っ込むのを我慢できなかった。だって大将、寿司が大好きなんだもの。


「カンブリア紀に寿司が存在しなかったという話、……する?」

「しなくていい。人類も誕生してないんだから、寿司なんて影も形もないでしょ」

「そう人類、人類と寿司は切っても切れない関係なんですよ、お客さん」


 にやりとする大将。これは寿司の歴史を語る上で、どうしても押さえておきたいところなのだ、大将的に。


「人類の祖先が火を使い始めるじゃないですか」

「寿司と関係ないだろうけど、まあ、そうだね」

「あぶり、の技術が生まれたんですよ」

「危ない、ちょっと関係あるかと思った」

「ちっ、惜しい」


「あのさ、さっきから大将はそもそもが過ぎる。もっと現代に寄せて。億年とか万年前ではなく」

「もしかして、わたしが今でっち上げた話、嘘でしたか」


 困った。このお客さんは、通だ。ごまかしが通用する相手ではない。とはいえ大将も嘘をつきたいわけではない。本当の歴史を知ってもらいたい。


「ウィキペディア、ってご存じですか?」

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