寿司と推理

シャル青井

寿司屋の三人

「あの三人の中に犯人がいるのですね」

「ああ」

 探偵が視線の先には、座敷で寿司を食べる三人組。

 一人目は大トロを箸で掴み、旨そうにその大きな口へと運ぶ中年男性。

「誰が犯人かはともかく、アイツが死んで一番喜んでいるのは奴だ。この寿司も、奴が祝杯を上げるために企画したものらしい」

 依頼人の言葉に、探偵はただ首をすくめる。

「その隣の痩せた男は殺されたアイツの懐刀だ。アイツが最も信頼していた男だが、逆からどうだっただろうな」

 男はただ無表情で穴子を咀嚼し、指先についたタレを入念に拭き取る。

 そしてまた、死んだような眼で目の前の寿司を一瞥する。

 宝石のように輝く新鮮な寿司と、どす黒く濁った瞳の男。

 どちらが生きているのかさえわからない。

「最後はアイツの愛人だった女だ。もっとも、そこで旨そうに寿司を食っている奴とも繋がっていたらしい。女は怖いな」

 いかにも下品な笑顔を浮かべ、女はシャリの色が変わるほど醤油をつけてイカを食べる。そして、箸の先についた米粒を妖艶に舌ですくい取ってみせた。

 中年はそれを嬉しそうに眺め、痩せぎすは視線を向けようともしない。

「では、彼らについて調査を頼む。一体誰がアイツを殺したのか」

「……いえ、調査の必要はありません。もう犯人はわかりました」

 探偵はそれだけいうと、懐から犯行現場の写真を取り出す。

 倒れた男。机の上には二つのパック寿司の残骸と醤油皿。そして封に入った割り箸。

「ほら見て下さい。犯人は醤油を使っているにも関わらず、割り箸を割ってもいない。つまり犯人はこの状況でも、寿司を箸で食べることを良しとしなかった。そしてあの中で、箸を使わずに寿司を食べているのは、ただ一人……」

 探偵の視線の先には、無表情のまま、ネタのタコに醤油をつける男の手がある。

「どういう口実で引っ張るかはあなたが考えて下さい。それは料金外だ」

 そして探偵は席を立つ。


 痩せた男が犯行を認めたのは、その翌日のことだった。

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寿司と推理 シャル青井 @aotetsu

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