ダダイズムにおける寿司の役割について

水金

1章 序論

 寿司がダダイズムにおいて重要な役割を果たしていたことはご存じであるだろうか。第一次大戦時に興った芸術運動であるダダイズムであるが、その思想は既成の秩序や常識へのアンチテーゼによる。

 寿司は日本の伝統食を象徴する存在でありながら、しかしその実態は切る以外いかなる調理も行わない、魚介類を米の上に乗せるだけの料理なのである。その実態はまさしく料理に対するアンチテーゼであり、正にダダイズムというべき存在である。


 寿司を用いたダダイズムの金字塔となったものはやはり、日本を代表する芸術家であったスズキの「寿司」であろう。「寿司」は寿司下駄の上に置かれたシャリとマグロである。しかしシャリの上にマグロは乗っていない。マグロはシャリのわずか1cm離れたところでぽつねんとしている。

「果たしてこれは寿司と呼べるのであろうか。おそらくほとんどの人は寿司とは呼ばないであろう。米と刺身と答える。しかしながらマグロをシャリに乗せればそれは寿司と呼ばれる。「寿司」ではネタとシャリにわずかな径庭があるだけである。それではシャリの上にマグロが半分だけ乗っていたら?逆に何割乗っていれば寿司でどれだけ離れれば寿司ではないのか?」

はスズキの言である。スズキは料理のアンチテーゼである寿司に対し「寿司」という更なるアンチテーゼを作り上げたのである。

 「寿司」は寿司職人に大きな反響を呼んだ。大体は「ネタとシャリを離して置くことはないからどうでもいい」というものであったが。「寿司」により一躍日本ダダイズムの風雲児となったスズキは様々な寿司に関するダダイズム作品を作り上げる。だが「食べ物で遊ぶな」とダダイズムに対してアンチが湧くアイロニカルな事態となり、やがてスズキは表舞台から姿を消した。


 のちに同じく芸術家の海原雄山がカレー屋の店主に「これは本物のカレーか?」と尋ねることとなるがそれはまた別の話である。

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