永遠の寿司

徳川レモン

幸せの味


「パパ! えびさんが食べたい!」


「そうか、じゃあ海老を一つ」


 職人さんに海老を注文する。

 回らない寿司屋。値段が高くなかなか手が出せない寿司屋の事をそう呼ぶ。安価な回転寿司のチェーン店が普及してからは、ますます一般人にとって疎遠となり、俺も大きな記念日でなければこうして家族と来ることもなかった。

 横では妻がマグロを味わい、娘も出された海老を口いっぱいにモグモグさせて楽しんでいる。これが幸せの味と思えば、口に含んだサーモンもさらに甘美な味わいへと変化する。ああ、なんて美味しいんだ。


「貴方、どうして泣いているの?」


「ああ、幸せすぎてな……」


 妻は俺を見てほほ笑む。


 そして、視界は歪み始める。


「終わりか…………」


 ヘッドギアを取ると、家庭用VR機器の本体が火花を散らしていた。

 視界に映るのは荒れ果てた家だ。屋根は無くなり、家具や思い出の品が瓦礫に埋もれている。上を向けば、見えるのは目が痛くなるほどの青空。


 世界中で戦争が起こり、人類の数は激減した。


 もう、妻も娘もいない。

 俺はもう一度ヘッドギアを被ると、思い出の中へと沈んでいった。




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永遠の寿司 徳川レモン @karaageremonn

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