第5話

 聞いたら、珠ちゃんの実家は有名な沖縄空手一派の空手道場で、本人も子供の頃からいわゆる英才教育をオジーチャンからほどこされていたらしい。ちなみに、ママは相当反対だったらしいけど。

 でも、自分があんなに強いなんて気がついていない、いや感じてないみたい。

彼女いわく、自分なんかより強い人たちが実家に帰るとゴロゴロしてるんだって、そりゃ当たり前だろーが。

 最近、日本男児も頼りないらしく中学生の頃は、なんかわざと因縁つけられたり、ナンパされたりした時、待ってました!とばかりにストリート勝負してたりしてたんだけど最近、不良もひ弱に集団化してケンカもしなくなって全く面白くないらしい。

 センター街でしつこいAVのスカウトマンに西武の駐車場で正拳くらわせて、ひと泡ふかせてピクピクさせてちゃったところに、警備員が警察呼んで、お門違いもこってり、絞られ、それ以来あんまり外で不良、チンピラ関係いじめるのやめたとの事。

 今は、もっぱら、道場で日々スキルアップに努めているらしかった。


 私、思った。ひょっとして、こいつ、ひと暴れしたくてわざとヤバイ公園通ったなって。

 人は見かけによらない、わかちゃいるけど、ハワイで学ぶ人間の本性なり、まさかの猛者の珠ちゃん、そして純ちゃんも。

 純ちゃんも、さっきから変。人が変わったみたいにハキハキ元気いっぱい。

 でも、私もそうかも、なんか人間かっ飛ばして、躍る血潮の吹き出るプファー見て何かが変わった気もする。

 変わらないのは、この子、珠ちゃん。

「そっか、初めてだったんだぁ。じゃ、気持ち良かったでしょ~、楽しいでしょ~。私といれば、だいたい、だいじょうぶだよー。相手が強くてヤバイ時はすぐ逃げちゃえばいいしー」

 だいたいかょ、おまえはって、この珠ちゃん、スゲー変な子、危ない子。


 ちょっとオシッコちびった?って、私、純ちゃんに聞いたら、

「ウーン、全然、でも、生理、始まっちゃったみたい」

 だって。ケラケラ笑って珠ちゃん、油断して、缶ビールぐって握ったら、一瞬のうちに平べったくグシャだって。



 最終日、女の子らしく一応ショッピング。

 店の女の子再集合で、ハワイ最後の晩餐はハワイ大学の近くの海鮮チャイニーズ「キリン」、ハワイ産の蒸しアワビに蒸しエビ、カニのブラックビーンズソース炒め、貝柱と卵白のチャーハン・・・もう、いっちゃいそうに最高のとの声高し。絶対日本だったら自腹じゃ食べないバブルの食事、ここハワイではみんなイキイキ自腹で愉しむ。


 昨日の出来事をみんなに言いたいんだけど、絶対にみんな信じてくれないと思うから言わない。多分、日本に帰っても。

なんかスゲー秘密を持った3人組ってか。

なんか自信を持っちゃたのは事実。でも、海外旅行は油断大敵、その甘えと慣れが不幸の入口、肝にも命じて今後の糧に。


 あんなにイヤダ、なんかイヤダって憂鬱だったハワイが嘘みたい、なんか、楽しくなってきた。なんか、時間が経つのがもったいない気持ち、いっぱい。


 男の子が、同じ運動部とか入ってずーといると、歳をとっても、なんか仲がずーといいのがわかる気がする。

 これが一つの青春の連帯感ってやつか。



 成田、無事帰着。

 ターンテーブルに珠ちゃんの荷物が出てきた。

 みんな、それぞれ挨拶を交わして、それぞれの家路についていく。

 珠ちゃん笹塚、純ちゃん高井戸、私は三鷹。

 とりあえずここでバイバイする手もあるけど、三人でリムジンで新宿まで。ここで、解散することに。


 また、すぐ会うのになんか寂しいぃーかも。

 みんなバラバラそれぞれの生活に戻っていくんだよねー、普通の毎日にって。

 じゃ、ハワイの数日間は現実じゃないかっていうと、立派な現実なんだけど、ふっと通常サイクルに逆戻りってなーんか切なく心寂しい。

 気持ちの取りかえって、そんなに簡単にあっちに行ったり、こっちに行ったりスイッチきかないのかもしれない。



 リムジンは首都高、外苑通過、夕日に赤く高層ビル街。

 もうすぐ、新宿到着、みんな無口で遠くを見てる。

 気持ちは、みんな一緒の別れがたき思いのバスの中…なんか、久々に人間、いや友達っていいなぁーなんて、めずらしく思う。

 こんな、気持ちそうだ!高校の修学旅行以来。

 珠ちゃん、純ちゃん、そして私、明日から普通にまた暮らす、ひとりひとり。

 このハワイ、この仲間、私の何かが変わったみたい?

 いや、違う、何かを思い出したんだ。

 心に感じるキュンとする、そう、あのカンジ。

 そう、楽しいお祭りに…必ず「終り」はやってくる。

 楽しい出会いは寂しい別れの始まりか…それが人生なんだなぁって。


「じゃ、また…」

「バイバイ…」

「じゃーねー…」

 明日の夜、また、すぐ会うはずなんだけど…元気モノの珠ちゃんもなんかしっとり、みんな春爛漫の宵の口、別れもせつなく一人一人の暮らしに帰っていく。

 きりがないから振り返るのは、もう、やめた。

 珠ちゃんの大きな声。

「バイ、バーイ!まった明日っねぇー!!バイバーイ」

 私も、純ちゃんも半分恥し、でも半分うれしく。

 みんなが、それぞれ見えなくなるまで手を振った。

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夏の終わりに 高橋パイン @beach69

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