究極でなく至高でもない想い出の寿司

神無月ナナメ

最高の寿司ネタについて思考を巡らせる

 江戸前ネタを中心に職人が魂を込めて握る「一品・・」として目前一枚板カウンターに置く足つき板に載せ客に提供する老舗が大半だった昭和から平成初頭までの寿司屋。


 バブルが弾け社用族が深夜接待後に家族の土産として価格表示もない店で持ち帰り注文する領収書の営業マンがいなくなった後でレーンが廻る回転すしに多数の形態が変化したのだろうか。二個均一の価格店か皿の色や値段が区別されてひと・・目でわかる明確設定も安心できた。ファミリー層を対象に子供向けの景品と温うどんから一品のアテとして天ぷらと焼き物に甘味まで豊富なサイドメニューを提供する店も増えた。


 安心感と多様性で幅広い年代層に受け入れられて寿司人気も回復するが新タイプが増加すれば古いシステムが淘汰されるのも世の常で人気ネタは時代ごとに変遷した。


 世界的生息数激減によるマグロの漁獲高制限で仕入れ価格が高騰してウナギは国産養殖物でも庶民には高根の花に変化する。逆にサーモンとして一番人気のネタになる養殖トラウトは人工池で飼育されて寄生虫もなく全国津々浦々まで安定供給される。


 時代ごと年代ごと性別の違いから好みのネタも異なるだろうが自分は昔から最高のネタをあげるなら「蒸し穴子」一択である。元来は江戸前すしの定番で天ぷらも一匹穴子として重宝され地元で昔から人気店として廻らないが庶民価格で経営されてきた鯛すしは蒸し穴子を七輪で軽く炙り甘い「ツメ」を塗る裏メニューを提供していた。


 常連客誰もが注文する人気のメニューであり元若手職人たちが離れた路地裏で後にメニューと価格を守り新店を開くが想い出に変わり継続させているのか定かでない。


 ただ現在も最高の寿司ネタとして最初に思いだすのは高級なトロでもウニでもなく在りし日・・・・の炙り蒸し穴子である事実だけはおそらく死の瞬間まで変わらないだろう。

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究極でなく至高でもない想い出の寿司 神無月ナナメ @ucchii107

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