指を巡る冒険

ネッド リヒニー

第1話

もし、人の指が出てくる例のラーメン屋に行くことがあれば、出されたラーメンを食べずにすぐに立ち去るべきだとレンゴが言った。数週間前から、僕とレンゴとは例のラーメン屋についてよく話していた。というよりも、僕とレンゴは例のラーメン屋の話題だけで繋がっていた。無線LANルーターとスマフォが電波だけで繋がっているように、僕とレンゴとの間には例のラーメン屋についての話題だけがあった。例のラーメン屋について、人の指がトッピングとして出される以外のことは全くわからなかった。それがいつもなのか、時々そうなのか、あるいはある特定の種類のラーメンでだけそうなのか、確かなことは全くわからなかった。


レンゴと初めて会ったのは、大学の食堂で食事をしていたときだった。十月の多重四日についてのある込み入った実習の後の激しく長大なレポートを書き終わった後の遅い昼食だったと思う。昼休みが過ぎていたので、食堂には食堂のおばちゃんとひとけの少ない食堂で食べたいばかりに昼食を遅らせる変人と授業をサボって仲間と地球の終わりまで喋りたいだけの人々しか残っていなかった。窓側の机の上には春の午後の日差しが四角で囲まれてばらまかれていた。一日のうちで一番いい時間だった。僕は券売機の醤油ラーメンのボタンを押すと、460円を払って食堂のおばちゃんに渡した。待っている間、赤髪のハンサムが現れて、食券をおばちゃんに渡した後、僕に話しかけた。

「この世のどこかには、人の指が入ったラーメンを食べさせる店があるらしい」

「そんなこと」僕は間を置いて否定した。「あるわけない」

声がしたのは後ろの方だったと思う。

振り向くのはなんだかシャクだった。人の指が入ったラーメンの話は、どこかの街の片隅でまことしやかに囁かれる噂めいたれっきとした都市伝説ではなくて、僕一人を驚かせるための悪質なイタズラに過ぎないと思われた。僕が信じて誰かに話してしまえば、それは新しい都市伝説になるだろう。僕が起点になって都市伝説が生まれるのはあまりいい気分じゃない。

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指を巡る冒険 ネッド リヒニー @noqisofon

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