1話-カリカリとキャットフード
猫の猫による猫のための争い。事の発端は1年前。トラ模様が特徴の「あゆとら」とシマシマ模様が特徴の「しまるり」が出会ったことにより始まった。
2人…いや、2匹の野良猫が出会ったのは偶然か必然か。2匹は互いに「こいつとは親友になれる」そう感じたそうだ。そんな2匹の仲が悪くなり、全ての猫を巻き込む争いにまで発展してしまったのは、些細な口論からだった。それはとてもくだらない、大切なものをかけた争いだった。
*
「なんじゃ。今日は魚ではなく、キャットフードか。質素じゃなのぉ…」
口いっぱいに頬張りながらもごもごと不満をこぼす。すると、となりからクスクスと笑いをこらえているのが聞こえた。
「何がおかしいのじゃ?」
「しまるりお前、キャットフードってダセェな」
あゆとらはついに、笑いをこらえきれなくなり吹き出した。
「…それはどういう意味じゃ?」
眉間にしわを寄せながら言った。
「キャットフードって言い方が古いって言ってんだよ。しかもなげぇ。今時はカリカリだろ」
鈍感なあゆとらはケラケラ笑いながら話す。これが地雷だった。
「…何を言いよる。キャットフードがダサいとな?お主のカリカリのが何倍もダサいじゃろ。なんと幼稚な言い方じゃ。笑いが止まらん」
しまるりはそう言い、嘲笑した。
「は?お前もう一回言ってみろよ」
険悪な雰囲気がたちこめる。
「あぁ、何度でも言ってやるぞ。カリカリが幼稚な言い方だと言っておるのじゃ」
「それは俺への挑発、つまりは宣戦布告と受け取っていいんだろうな?」
「なんと短気な奴よ。まぁ、構わん。お主がそうしたいならそうしろ。例え戦争になろうとも主の負けは目に見えておるがの」
「馬鹿なことを言うもんじゃぁないぜ。じゃぁな」
そう言うと、あゆとらは尾を揺らしながら去っていった。取り残されるしまるり。
「…くだらない喧嘩をしてしまったのぉ…」
空を見上げ悲しげな瞳で呟く。
「…でもやっぱりあやつムカつきよる。マジでボコボコにしてぇ…」
固く結ばれた絆は些細なことでほつれてしまった。
*
2匹は短期間で勢力を巨大化させついにはすべての野良猫を巻き込むほどになった。敵と出会えばすぐに争いが起きる、そんな危険な世の中になった。そんな時、待てと声を上げる1匹の猫がいた。その猫は言った。「呼び方なんでどうでもいい。飯なんて魚が1番に決まっている」と。どの猫もその一言にハッとした。そうだ。飯なんて魚が1番に決まっている。当たり前じゃないか。皆そう思った。そして、言った。
「そういう問題じゃねぇんだよぉぉぉ!!!」
その1匹の勇敢な猫は1分も待たずにボコボコにされた。命からがら逃げ出した彼はそのまま交差点に飛び出た。右側に何か黒いものが見えた。ここは交差点。迫り来るそれは車。あぁこのまま轢かれてしまうのか。焦りを感じた。その時、尾に違和感を感じびっくりして飛び上がった。ありえない高さまで。
*
白い猫が飛び出すのが見えた。車が迫っているのが見えた。咄嗟に尾を掴む。
「みぎゃっっ!!」
その猫はとんでもない高さまで飛び上がり、車を…よけた。
「すっげぇ…」
目を見開き、一言、口から溢れでた。
白い猫はドスンと着地し、こちらを見て駆け寄ってきた。
「やぁ少年。助けてくれてありがとう。危うく死ぬところだったよ。えーと、名はなんて言うのかい?」
「えっ。なにこの猫。喋んの?えっ。こわっ。
てかこの猫の○がえし的な出会い方なに。ダメでしょ…」
その猫に対し、冷たい視線を送り、冷静にツッコむ。
「猫の○がえし?よくわかんないけど僕はもちづき。君は?」
「えと…
「じゃぁむっちゃんかな?君にお礼をしなくてはならないね!」
「いきなり失礼だなこいつ…」
そう言いつつお礼とやらが気になった。まさかそこまで同じはないだろうな…と不安になる。
「まぁそう言わないでおくれ。ちょっとしゃがんでくれないか?僕は少しぽっちゃり体型だからあんまり高く跳躍できないんだ。さっきは奇跡的だったね。」
どこがぽっちゃりだよ。デブだろと思いながら渋々しゃがみこむ。一体なにをする気なのだろうか。
「さぁ行くよ!」ともちづきはジャンプした。
そして、俺のおでこに猫パンチを繰り出しながら言葉を放った。
「にゃんだっぱー!」
…特になにも起きない。ただ猫パンチを食らっただけのようだ。無言で立ち去ろうとした時、もちづきが飛びついて全力で止めに来た。
「待って落ち着いてくれよ!行かないでおくれ!君には素晴らしい力を与えたのさ」
「素晴らしい力?」
悪い予感しかしない。こう言う時は大抵面倒ごとに巻き込まれるものだ。
「そうさ。猫界では今争いが起きている。それを止めたいのだ。だから僕と一緒に魚の良さを広める手伝いをしてほしい」
ツッコミ所が多すぎる。そもそも猫界ってなんだよ。争いを止めるために魚の良さを広めるってのも意味がわからない。ただ一つ、やはり面倒ごとに巻き込まれそうになっていると言うことだけはわかった。
「そうか。よくわかった」
「本当かい?それじゃぁ手伝ってくれるんだね?あぁ安心した。1人じゃ不安だったんだ」
「お断りだデブ猫」
「ん?え?今なんて…」
「お断りだ」
「…そんな!酷いよ!期待させといて!なんて奴だ!最低!ゲス野郎!」
散々な言われようだがそんなことは気にせず立ち去ろうとした。しかし、例のごとくもちづきが飛びついて全力で止める。
「待っておくれ!冗談だよ!謝るから!」
「めんどくさっ…」
「そう言わないでおくれ。わかった。一回でいい。一回でいいから“にゃんだっぱーぱ”って言って!お願い!」
もちづきは土下座で頼んだ。これ以上この茶番に付き合うのが面倒になりはぁーとため息をついて言った。
「にゃんだっぱーぱ」
すると、頭と腰の辺りに違和感を感じた。手を伸ばして探ってみると、耳と尻尾が生えていた。「な、な、なんじゃこりゃぁぁ?!!」と叫びながら怒りと羞恥心で顔を真っ赤にし、もちづきに襲いかかる。それをもちづきはヒラリと避けてドヤ顔で言い放った。
「ざまぁみろ!ばーかばーか!これでお前は僕を手伝はなくてはならなくなったな」
「も、元に戻せぇ!」
「争いが終わりを迎えることができたら元に戻してやるさ。さぁどうする?」
ニヤニヤするもちづきにさらに怒りが湧いたが仕方なくそれを承諾した。
「俺はなにをすればいいんだ?」
まだ怒りの残る声で問いかけた。
「まずは君の得た力について説明しよう…」
まじかるぬこ しおむすび @_salt_sio
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