死闘
その身に纏う光の粒子と黄金の鎧。その背で燃えさかる真紅の
其は光の神、エクス・リューン。
その身に纏う漆黒の闇。大鷲の翼に獅子の手足。亡き城の魂にて力を増す。
其は闇の神、デウス・バース。
今、輝きを増す夜空の星々と異界の都市の下、相対する二体の巨神。
そしてその背後。港湾都市カルボーハルがゆっくりと移動を開始する。民を守らんとするエクス・リューンの邪魔にならぬよう、カルボーハルはその場から高速で離れようというのだ。
『こちら、双竜騎士団団長、フレイ・ウォルシュ! 我々は今より、蘇生した敵騎兵部隊の迎撃に向かう!』
『翼竜騎士団、団長のバロアだ。なら俺たちはあの
『ハッ! そのときは、
天上を埋め尽くす数百の
デウス・バースの持つ神力――
二つの軍勢はちょうど二つの月が夜空の直上に達したその瞬間に激突。刹那、夜空に百を超える
漆黒の騎兵たちと斬り結ぶ、アナムジアの赤銅色の騎兵たち。しかしその側面からそれぞれ甲冑のパーツを失った騎兵が特攻を仕掛ける。自身の衝撃もいとわぬその突撃に、体勢を崩されたアナムジア騎兵は跳ね飛ばされて落下、地面へと落ちきる前に、別の帝国騎兵によって切り裂かれ、爆散する。
『団長! 敵は死をも恐れぬ不死の軍勢。我らの攻撃を意に介しません!』
『全騎、私の元に集え! 攻撃を集中し、二度と再生出来ぬよう粉砕する!』
〇 〇 〇
『アハハハハ! もう終わりかい? これなら、クレハ・リクト一人のほうがまだ強かったよ!』
『――くっ! さすがは第三席っ――! ブリングも殆ど地形有利だってのにっ!』
『――なんて、強さ――。リクトは、さっきまでこんなのと戦ってたの――?』
デウス・バース、右肩上方――。
その周囲に無数の水球と水流を纏い、
『はぁああああああッ!』
巻き起こる豪炎。超高速で巨神の肩上を駆け上り、夜空へと飛翔してきりもみに落下、まるでミーティアを包囲するかのような軌道を描いたソレは、灼熱の炎でミーティアの円月から放射される閃光の力と拮抗すると、即座に人型へと化身、真紅の甲冑を纏ったフレス・ティーナが姿を現し、その炎の長剣で袈裟斬りの斬撃を繰り出す。
『――だけど、君はなかなかやるみたいだね。特にその竜の力――純血種の中でも相当な上位――!』
『当然です! この竜の名はフレス・ティーナ! 我がソラス王国を500年にわたって守護し続けてきた、最強の炎竜! その力は、たとえ
『そうかいッ! せいぜい吠えてなよッ!』
腕組みをしたまま微動だにしないミーティア。ミーティアの備えた浮遊円月がフレス・ティーナの爆炎の長剣を防ぎ、その炎の熱量と双月の光量が、幾筋もの放射を伴って夜空の下で拮抗する。
『おおおおおおおお!』
『アハッ! また来た!』
そしてその拮抗に飛び込んでくるのは、巨大なハルバートを構えた茶褐色の
『何度やっても無駄さ! 君たちがいくら束になってかかっても、僕と
バロアの攻撃を即座に読み切り、完全に自動化された軌道でガッツィオのハルバートを叩き弾く二つ目の円月。円月はハルバートを弾くと同時に、ガッツィオの右腕を切り上げ一閃、切り飛ばす。
『ぬぅ――!』
『バロアッ!?』
『アハハハハハハ! 弱い弱い! 弱すぎるよ君たち!』
かつてカルボーハル周辺の防衛戦で、戦場を共にした戦友の危機に、ロンドはすかさず加速。ミーティアの眼前まで一瞬で飛び込み、斬り結ぶフレス・ティーナとは別角度から、水流を纏った短刀で切り上げ、切り下げの一閃を放つ。その瞬間――。
『とらえたぞ――!』
『――っ!?』
ブリングの攻撃への対応に移るはずの円月が動かない。驚くミナイが視線を戻した先では、片腕を失ったバロアのガッツィオが、ミーティア周辺を浮遊する双月、そのうち一つに残るガッツィオの片腕を噛ませ、機動を封じていたのだ。
砕け散るミーティアの装甲。通常であれば、問題なく防御に入ることが出来たはずの円月の動きを止められたミーティアは、繰り出されたブリングの水流による斬撃をまともに受ける。
『そういうことなら、私だって!』
その光景を見たリンも搭乗部で操縦桿を握り、即座にシークリーを引き起こすと、すかさず長弓へと矢をつがえ、撃ち放つ。
『ちぃっ! 蛆虫のくせに……っ!』
『よし、作戦は成功した。全騎兵、俺に続け!』
バロアが叫ぶ。その瞬間、ミーティアの持つあまりにも強大な障壁により、今まで有効な打撃を加えることができなかった無数の皇国騎兵たちが、一斉に四騎が密集する場へと殺到、ミーティアにトドメを刺さんと、遠方からは精密射撃可能な
『――ふぅ。ま、いいや』
刹那。強靱無比なガッツィオに。豪炎と化したフレス・ティーナに。洋上の加護を得たブリングに拘束され、さらにその周囲からは、シークリーも含めた二重三重の遠距離射撃。そして無数の騎兵突撃を受けようとしていたミーティア内部で、ミナイがつまらなそうに呟いた。
『少しだけ見せてあげるよ。僕の力を――!』
〇 〇 〇
相対する光の神と破壊の神。三体の巨神が合体したデウス・バースの巨体は、グラン・ソラスを依り代として光臨したエクス・リューンを遙かに上回っている。
エクス・リューンの全長、1200メートル。対して、デウス・バースの巨体は、その背面のガドル・エガルの翼長を含めて1800メートルに達していた。
重量にしてもその差は圧倒的である。実質、エクス・リューンは自身の二倍以上の質量を相手に、真正面からの戦いを強いられることとなる。
その巨体の周囲で、無数の爆炎と剣戟が煌めく中、ついに二体の巨神はお互いに向かってゆっくりとその一歩を踏み出す。
瞬間、周囲の全騎兵の動きが止まる。否、止まったのではない、止まらざるを得なかったのだ。その一歩に込められた、あまりにも強大な力、その踏み込みに、大地だけでなく大気が震え、天が震え、海が震えた。
その震動は空間そのものを震動させ、空中で戦闘を行っていた数百の騎兵達も、その瞬間だけはその衝撃から身を守るため、全魔力を集中しなくてはならなかった。
エクス・リューンが光の残像を夜空に残して前進する。その力強い踏み込みは、大地を穿ち、岩盤を揺らす。
デウス・バースが両手を広げ、背面の翼を展開する。その全身に纏う漆黒の闇が大きく広がり、背景に広がる夜空を覆い隠す。
(だいじょうぶ、リクトなら――)
(リクトなら、出来るよ!)
瞬間、エクス・リューンは、自身と同一化したグラン・ソラスから暖かな声を聞いた。エクス・リューンはその声を胸に、眼前のデウス・バースを見据えると、その総重量百万トンにも達する光の拳を握りしめ、真空による大気の断層を発生させながらデウス・バースへと神の鉄槌を下す――!
瞬間、それを見たデウス・バースもまた、獅子の爪を得た右腕でその一撃を受ける!
――インパクト。
エクス・リューンの拳とデウス・バースの腕。二つの超質量がぶつかり合った空間が砕け、プラズマが弾ける。雷鳴が轟き、夜空を奔る白雲が一瞬で円状に崩壊した。
エクス・リューンが咆哮を上げる。光の神は攻撃の手を緩めない。
受け止められた右拳の引き戻しと共に、左拳を下方からゆっくりと突き出す。その緩慢さはしかし、一瞬で音速を超えて加速し、全長数百メートルの大質量が音速を超えた瞬間の爆音は、遠く数百キロ離れた大地まで響き渡る。
デウス・バースはその一撃を再び受ける。しかし受けるだけではない。デウス・バースは回避も同時に行い、右側へと大きく傾きつつ、獅子を模した左腕でエクス・リューンの一撃を逸らして見せた。
――インパクト。
受け、逸らされたエクス・リューンの左拳はそのままデウス・バースの背面へと通り抜け、デウス・バースが備える大鷲の片翼を突貫貫通! 凄まじい爆音と衝撃を伴って粉々に粉砕する!
圧倒的な風圧と衝撃に、空中で戦う
エクス・リューンの一撃を受け、片翼を失ったデウス・バース。だが、デウス・バースはあえて片翼を差し出したのだ。繰り出した一撃を大きく逸らされ、デウス・バースの脇下を潜るような形となったエクス・リューンの左腕を、デウス・バースが振り下ろした拳でロックする。
鈍い衝撃と、遅れてやってくる爆音。そして踏み込まれたお互いの両脚が、一瞬で大地に巨大なクレーターを生み出す!
(リクトっ! 避けて!)
左腕をロックされ、逆に片膝をつくような形となるエクス・リューン。デウス・バースに対して無防備に晒されるエクス・リューンの肩口から頭部。そして今度はデウス・バースの異形の拳が、エクス・リューンの頭部に向かい、音速を軽々と超えて振り下ろされた――。
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