第四章
帰還
――漆黒。
どこまでも続く暗闇の中で、泣きじゃくるリクトを囲む、無数の亡骸――。
彼らは皆、リクトと共に生き、リクトを支えたかけがえのない存在――。
――どうしてみんな、うごかなくなっちゃうの?
――どうしてみんな、死んじゃうの?
ぼくが――。
ぼくが、みんなをたすけてあげられないから――。
ぼくが、たすける方法をしらないから――。
僕が、弱いから――。
僕に、みんなを助ける力があれば――。
『――問おう――』
声が、聞こえる。
いつだったか、この大陸へと初めてやってきたときに聞こえた声が――。
『――汝、何故力を求める――?』
投げかけられる問い。暗闇の中、無数の亡骸の中で泣いていた幼き日のリクトは、その声と問いに顔を上げ、その大きな瞳で声のする方を見つめると、最初はか細く、後には徐々に力強く。その問いに答えた。
「みんなを――まもりたい。みんなを、たすけたい。みんなを――死なせたくない。僕は、みんなに生きて欲しい! 僕はどうなっても構わない! だからお願い、みんなを助けて、助ける方法を教えて! 助ける力を貸して! なんでも、僕にできることなら、なんでもしますからっ!」
闇の中、無数の亡骸を抱きしめるようにして叫ぶリクト。その姿は知らずうちに成長し、今のリクトの姿へと変わっていた。
『名も知らぬ、それも、もとより死せる定めの者達のため、何故、そこまで――』
「命を守ることに、理由なんてない! それが――俺なんだ!」
リクトの叫びが闇を貫く。その叫びは何かしらに反響し、木霊して、闇の中に幾たびも響いた。そしてその声が響く度、まるでその決意が闇を砕くかのように僅かずつ、僅かずつ光が漏れ出し、その先の道を照らし出していく。
『――そうだったな。友よ――。よくぞ、よくぞ還ってきた――!』
その瞬間、闇の中でリクトは確かに感じた。
大きくて、暖かな、熱い鼓動を――。
〇 〇 〇
「――門が解放されているというのか!?」
「別の報告では、同じ場所でエクス級の反応も同時に捉えております――」
――フリオング大陸北部。
大陸に現存する最後の山脈地帯、カルゴダールに存在する円卓会議の主館――。
館の中で煌々と輝く緑色の炎。その炎は今、まるで何かに怯えるように激しく揺らめき、壁面を覆う無数の水晶には、大陸南端の港湾都市、カルボーハルがいくつもの視点から映し出されていた。
「反応は真であろうな?」
「――魔力値は完全に六百年前と一致している。そしてなにより、あれを見ろ」
円卓会議の法衣に身を包んだ者達が様々な推論を交わす中、一際大柄な男が前へと進み出ると、無数に存在する水晶から一つを指し示す。そしてその指し示された水晶には、天上へと立ち上る光の奔流と、その奔流の先に現れた天地逆の――このフリオング大陸世界のものとは全く別の、巨大なビル群で形作られた、美しい街の姿が映し出されていたのだ。
「あれぞまさしく、影の世界――。我らが目指す、目的の地――」
「なんと素晴らしき日か。つまりこれは――」
「これは、帰還しましたな――」
「ならばそれは、第三席のシエン・ミナイか、もしくは――」
「先日第九席に任じた、クレハ・リクトか、ですな――」
緑色の炎の下、ゆらめく人影――。
そして響く笑い声。クツクツと――クツクツと――。
その声は、暫くの間止むことは無かった――。
〇 〇 〇
光。そして閃光――。
突如として出現した光の奔流に押し出され、消滅する円月――。
天をも貫く光の奔流が闇を照らし、背後のカルボーハルの街を、眼下のグラン・ソラスを、相対する
光――それはまさに、光そのものとしか形容することが出来なかった。
その光は人の形をしていたが、頭部はまるで竜のよう。燃え上がるような長い
大き過ぎる腕。大き過ぎる両脚。そして、たとえ光の中でもわかる、その優しげな眼差し――。
それは巨大な――あまりにも巨大な、光の巨神だった。
『なんだ、こいつは……? 巨神、なのか? 僕も、こんなのは初めて見る……』
ミーティア搭乗部で、狂気に歪んだ表情に僅かな驚きの色を浮かべるミナイ。だが、そんなミナイに構うことなく巨神が動く。その巨大な腕をゆっくりと伸ばし、輝く掌が目指すのは、夜空の中、静かに落下していくラティ――。
眩く輝く巨神の光の掌は、傷ついたラティを優しく受け止める。
そして、全身に傷を負い、満身創痍だったラティは、その掌の中でみるみる内に癒やされ、力を取り戻していく。やがて光の中で意識を取り戻したラティは、一度静かな咆哮をあげ、その視線を周囲へと向けると、すぐに自分が巨大な何者かに守られていることを悟り、そっと――その掌に身を寄せた――。
そしてその眼下、グラン・ソラス城門前――。
「り、クト――っ」
ミーティアと戦うリクトを援護しようと、シークリーに騎乗して出撃準備を進めていたリンは、搭乗部でその光景を目にし、嗚咽を漏らす。
「あんた――……! やっぱり――っ」
リンは――泣いていた。シークリーの中で、誰の目を憚ることもなく、声を上げて泣いていた。そして、そんなリンの涙を受け止めたかのように、光の巨神はゆっくりとリンに背を向けると、狂気を湛えた
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