初陣
「作戦通りに!
「敵
「こちらの
遙かに広がる草原の海。傾斜したグラン・ソラスの影に無数の閃光が煌めく。
その閃光から一拍遅れ、数十、数百という爆裂音が幾重にも連なって大地に鳴り響く。
「――来たぞ! 全騎散開! この一戦でグラン・ソラスを落とす!」
暗闇に尾を引く幾条もの火線。グラン・ソラスからの砲撃を見て取ったファラエル内部のカリヴァンは、即座に麾下の兵たちに散開の指示を出すと、そのまま愛用の
広大な草原の上、次々と爆炎の華を咲かせて着弾するグラン・ソラスの砲撃。そしてその合間を縫うように高速で滑り進撃する帝国
○ ○ ○
「――始まった」
グラン・ソラス、西門前。
リクトは灰褐色の
既にラティの胸部装甲は完全に閉じられている。もう出撃だというのに、周囲は暗くラティが動く気配は一切なかった。
「……こいつの、ラティの、気持ち……」
暗闇の中、リクトが呟く。先ほどファルから受けた説明で、リクトは
――通常、
「――ようやくわかった。こいつは、怯えてなんていなかったんだ――」
響き渡る衝撃。リクトが握るレバーが小刻みに揺れる。
そして連続するグラン・ソラスの砲撃の音。
「誰より皆を守りたい――。それも、本当は敵だって傷つけたくないんだろ?」
――瞬間、それら全ての音や振動がリクトの感覚から遠ざかる。
――リクトは必死だった。だが、その時その瞬間のそれは、自分が生き残るためでも、リンを守るための必死さでもなかった。それはただ一つ、リクトが今乗り込み、リクトをその体内に収めて心を閉ざす、ラティという名の一頭の竜を理解するための必死さだった。
リクトの脳裏に、どこか遠くの戦場の景色が流れ込んでくる。
無数の敵。倒れゆく仲間。
そしてなにより、血塗られたラティ自らの手――。
「――わかった。約束する! 一緒に行こう!」
―――ドクン―――
瞬間、彼の座る操縦席は眩いばかりの閃光に包まれた――。
○ ○ ○
「――ロンド、リクトさんとラティの様子は!?」
「だめだな。城門前に放り出しておけば、盾にはなるだろうよ」
「そんな……!」
「開門! 開門ーーーー! 姫様、砲撃は30秒間隔です。お忘れ無きよう!」
「行くぞ姫! どっちにしろこいつはあてに出来ねぇよ!」
「リクトさん……!」
だが、ミァンが後ろ髪を引かれる思いでフレス・ティーナを出撃させようとした、その時――。
「ラティ!?」
それは、グラン・ソラス城内から戦場全体に響きわたる竜の咆哮――。
ミァンたちの目の前で、今までぴくりとも動かなかった灰褐色の
「マジかよ……あのガキ、やりやがったってのか!?」
雄叫びを上げたラティが周囲の櫓を押しのけて一歩前に出る。そのまま二歩、三歩と大地を踏みしめる度、周囲は大きく振動し、ラティを構成する甲冑の関節部から銀色に光る粒子が溢れ出していく。
「おいリクト! 聞いてんのか!?」
「聞こえてるって! このまま外に出ればいいんだろ?」
「ま、待って下さいリクトさん! そのままでは危険です。私たちの後方について――」
城門に向かって歩み続けるラティを止めようと、ミァンの乗るフレス・ティーナと、ロンドの乗る青い
「――なんか、やれそうだ! ちょっと行ってくる!」
「行ってくるって……!? リクトさん!?」
ミァンの驚愕の声は、収束した光の開放にかき消される。
リクトを乗せたラティは一瞬で加速。フレス・ティーナとブリングの間をすり抜けて城門を突破。そのまま漆黒の闇夜に光の粒子を残して飛翔する。
「よぉし、これからよろしくな! ラティ!」
リクトは加速する視界にも笑みを浮かべ、握りしめたレバーを強く引く。空中に飛び出したラティに急制動がかかり、ゆっくりと旋回しながら制止する。
その瞬間。こんな状況だというのに、リクトは操縦席から見える広大な異世界の光景に目を奪われた――。
「きっとみんな心配してるんだろうな――。早く帰って安心させてやらないと……」
呟くリクト。そのまま眼下に目をやれば、そこには無数の火線と、複数の黒い
自身を落ち着かせるように大きく息を吐くリクトの脳裏に、リンやミァン。ロンドやファル。そしてなにより、今この戦場を共に戦うラティの姿がはっきりと浮かび上がる。
「――やらないといけないことは山ほどある。わからないことも沢山ある。だけど――」
天空で制止するラティが、その腰に備えられた
「俺は、一人じゃない!」
少年は叫び、その事実が心の底から嬉しいかのように笑みすら浮かべ、灰褐色の竜を駆って戦いの渦中へと飛び込んでいく――。
そしてそれこそが、これから長く長く続くことになる少年の戦い、その初陣だった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます