第81話 【最終回】それでも俺は信じてる -Kazu side-
日本では、俺のルポタージュ「黒い龍の子供たち」が多くの反響を呼んだ。
書籍化オファーはもちろんのこと、一時は製作委員会を立ち上げて「ドキュメンタリー映像を撮ろう!」などといった大掛かりな仕事にまで発展しそうな勢いだった。
だが、連載も終盤に差し掛かった頃に話は突如立ち消えになった。
捨て身で決行した「L&M作戦」とはいったい何だったのであろう?
何が明らかになり、何が闇のままなのか?
ここで、改めて俺たちが辿ってきた道筋を時系列に沿っておさらいしたい。
※ ※
物語の始まり。
それは「秘密の島で見た幻覚」が暗示していた。
20●●年1月某日。
さくら苑に虐待の傷を負う少女「マイ」が連れてこられる。
彼女は度重なる転売の末、カンボジア、ラオス国境近くの置屋で売春を強いられていたところをNGO団体の手によって保護された。
本人は自身の年齢を19歳だと主張するが見た目はまるで小学生。
20●●年3月某日。
うっちーさんが人身売買の出発点はメコン・デルタではないか?との情報を掴む。
また、それと同時に調査結果をルポータージュとして新聞に連載するという大仕事を引き受ける。
「L&M(Lolita-Maker)作戦と名付けよう!」
アヤカの提案でベンさんがメンバーに加入。
後日、彼からメールが届く。
「人身売買ルートの出発点がメコン・デルタであるのは間違いない!」
子供たちの成長を抑制する方法は「鍼」?
20●●年3月某日。
メコン・デルタの奥地で怪しげな村を発見。
管理者の男とマイちゃんに彫られた刺青が一致。
裏庭に捨てられた大量のディスポ鍼。(鍼灸治療で用いる使い捨て鍼)
20●●年5月某日。
山梨県甲州市で伝説の鍼(はり)医「石坂 宗哲」の子孫だと名乗る老人から話を聞く。
骨格の成長を止める中国の秘術「抑身鍼」の存在が明るみに。
20●●年8月某日。
ベンさんから新たな情報が届く。
「メコン・デルタから移送された子供たちが次に連れて行かれる場所は、トンレサップ湖の可能性が高い!」
20●●年9月某日。
トンレサップ湖での調査に出発。
湖上の教会で龍の刺青が入った幼女を目撃。
ホームステイ先の娘が「龍の棲家」のタブーを告白。
「子供たちは、時期が来るのを待って中国に連れて行かれるの。身体に龍の印を彫られてね・・・」
メコン・デルタ。プノンペン。トンレサップ。ルアンパバーン。
ドラゴンフラッグの人身売買ルートがメコン川の流れと重なった。
「最終拠点はパクベンだ!」
20●●年12月。
相棒のナオキとともに「龍の城」を目指す。
あえなく囚われの身となった俺たちは、ベンさんと元ナレースワン部隊の尽力で無事救出されたが、アヤカが銃弾に倒れる。
※ ※
今こうして振り返ってみると、L&M作戦がいかに危険な綱渡りだったかがお分かりいただけるはずだ。
複雑に絡み合う因果の糸。
人知を超えた閃き。
それぞれが背負った宿命。
我々は、チーム一丸となって人身売買ルートの最深部へと迫った。
しかし、この辺りから各方面のメディア関係者が難色を示し始めた。
風向きは変わったのだ。
結局、パクベンで見た真相には触れずに「黒い龍の子供たち」の連載は終了する。
彼等に言わせると「世に発表するには問題点が多すぎる」そうだ。
元ナレースワン部隊と謎のオーストラリア人による越境行為。
邦人が受けた銃撃。
ドラゴンフラッグとの密約。
そればかりか、エビデンスがない東洋医学や、詳細をぼかした秘密の村の記述を「捏造」だと批判する自称知識人まで現れる始末だ。
衝撃的な内容の数々を、ありのままに報道できない「大人の事情」。
ジャーナリズムは死んだのだ。
いや、初めからそんなものは無かったのかも知れない。
俺は、この時ほど自分の無力さと現実の虚しさに打ちひしがれたことはなかった。
真実はいつだって闇の中。
だが、俺たちはそんな暗がりを歩いていくのだ。
希望の光を目指して。
止まない雨。癒えない傷。燃え尽きぬ煩悩・・・。
それでも俺は信じてる。
ここが「バンコクキッド」たちの居場所。
現代に生まれた意味。使命。
「退屈な毎日を送るくらいなら死んだほうがマシだ!」
日本を飛び出したあの瞬間から本当の人生が始まったのだ。
※ ※
過去は追わず未来を待たず
ただ一瞬(いま)だけを正しく勤めよ
『法句経』より
※ ※
バンコクキッド3-完-
バンコクキッド3~ロリータメーカー~ 綾瀬一浩 @kid-2016
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