第12話
石殿には水はあったが、密林に点在する沼や池や泉は泥地と化した。
おそらくゴドウの泉も涸れてしまったことだろう。
オムホロスは壷に飲み水を満たし、ゴドウの泉へむかった。
ゴドウはみる影もない姿で横たわり、死んでいるようにも思えた。
オムホロスはオスキメラを枯れた木立のすきまからのぞきみた。
地面に散らばる骨が白い根のように意味ある形をなして突き刺さっている。意味あるようにみせたのはオムホロスの脳。ぎこちない楔状の文字にみえたのだ。まるでゴドウの心中を描きだしでもしたかのように寂寥感をただよわせている。
泥地は気狂いのようにかきみだされ、その名残は横たわるゴドウの羊の四肢にみいだせた。ぴくりともせぬゴドウ。
「ゴドウ……」
オムホロスは遠慮げに声をかけた。死んでいるかも知れないという気持ちとそれをいぶかしむ気持ちにゆれていた。そっと結界をくぐり、たたずんでもう一度オスキメラの名を呼んだ。
「ゴドウ?」
ゴドウはところどころ皮のむけた顔をあげ、オムホロスを一瞥した。とたん、なにかを恐れるようにゴドウはあわてふためき、両腕で顔を隠してしりぞいた。
「ゴドウ、水だ。飲めよ」
他意もなくさしだされた壷をゴドウはじっとみつめた。さきほどまでのおののきはたちどころに霧散し、襲いかかるように壷をオムホロスの手からひったくった。のどを鳴らして一気に飲み干してしまう。最後の一滴までも舌を使ってなめとろうと、壷に顔を突っこんだ。ようやく壷から顔を離し、こんどはその目をじっとオムホロスにむけた。
オムホロスは正気のかけらもないゴドウの瞳を、おとなしくひざまずいたまま正面から見返した。
ゴドウの手が荒々しくオムホロスの腕をつかんだ。ゴドウは歯をたてるようにオムホロスの唇をむさぼった。いまやオムホロスの仰向けの体を、ゴドウの前足と両腕が恐ろしい力でとらえ、モロの精のとどこおるぬらぬらとした長い陰茎をオムホロスの腹に押しあてた。
「モロよ、まだ約束の一年はたっていない。まだ約束の女もみつかっていない。ゆえに陰陽をあわすのはいまではない」
オムホロスは断固としていい放った。約束の絶対力は神に対して絶大な効果があった。ゴドウのなかのモロが歯軋りをする。ゴドウは哀切なうめき声をたてた。
オムホロスはゴドウに優しく話しかけた。
「ゴドウ……オムホロスに愛をもとめるのはやめるんだ。オムホロスは応えてやれないのだよ」
ゴドウはその言葉を無視した。両腕がオムホロスの胸ぐらをかきむしり、チュニックを引き裂いた。
オムホロスはゴドウの荒々しさに息を飲んだ。
ちっぽけな乳房が胸のうえでつぶれて淡々とした乳首だけがのぞいた。ゴドウは歯をたててぎりぎりと乳首に食いついた。かみちぎるほどの力ではなかったが、たらたらと血が流れた。
オムホロスは痛みに声をあげた。だが、逃げようとはしなかった。
ゴドウの獣の陰茎のさきがじれったそうにオムホロスの女性器に押しあてられた。ゴドウはその激しさをオムホロスの肩に歯をたてることでそらした。
オムホロスの少年の腕をゴドウの青年の腕がとらえ、両側から力強く引いた。オムホロスは一瞬引きちぎられるかと身をこわばらせた。
オムホロスの瞳と、ゴドウの行為にそわないひたむきな瞳とがむきあった。
ゴドウはいき場のない高まりをしきりにオムホロスにこすりつけた。はがゆそうにオムホロスの首筋に歯をたて、歯型の残る愛撫を与えた。
オムホロスは目を閉じた。いつのまにか体の芯にほてりを感じていた。開かれた両脚のつけ根にしびれるように熱感が生じ、ゴドウの性器を通じてにじみでてくるようだった。ゴドウの与えるまんべんない痛みが、オムホロスをやるせない気分にさせた。
オムホロスの両腕をひくゴドウの腕に力がますます加わる。オムホロスの肩の骨がきしみだし、痛みと甘美が錯綜する。
オムホロスのあえぐ声にゴドウは我に返り、腕を離した。
「ゴドウ?」
ゴドウは苦悶に顔をゆがめ、首を激しく振るとオムホロスに背をむけた。
オムホロスの血まみれの体は痛みにではなく、快感にほてっていた。女性器はゴドウをいつでもうけいれられるように体液でしめっていた。
ゴドウは振りむきもせず、じっと森をみつめていた。
体が冷えはじめたオムホロスはすっくとたちあがると、呪文によって結界をくぐり、石殿へ戻っていった。
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