第9話

 女神官の手をつかみ、腰をとらえた。


 クリスタルのいんいんとした音がしゃらんと割れ、女神官ともつれあってクリスタルの床に転倒した。


 ルーは女神官を組み敷き、にわかに情欲が高まってくるのを覚えた。


 体のしたで息せきあえぐ唇を自分の唇でふさぎ、彼女の肋骨の浮きでた脇腹を手のひらでなぞった。彼女の両脚がルーの腰にからみついてくる。


 ルーは片手で髪ひもをとき、無意識に女神官の両手を縛ろうとした。


 突然、女神官は怒りの声をあげ、ルーのこめかみを力まかせに殴りつけた。


 ルーはひとしきりうめいたあと、かんしゃくを起こして叫んだ。


「痛いじゃないか!!」


 女神官は憤慨してこたえた。


「わらわは獣のように縛られるのは嫌いじゃ! この両手でぬしをだきしめていたい」


 ルーは興奮が一気に萎えていくのを感じた。

 意気消沈したルーを女神官は不思議そうにみつめた。

「どうしたのじゃ? わらわをだきとうないのか?」と、笑みを浮かべて両手をのばした。


 ルーは女神官の態度をうらめしげにみつめ、「なぜ、昨夜もそんな態度でうけてくれなかったんだ?」とぼやいた。


「あれは商人の娘じゃ、わらわは女神官なのじゃ。いま、わらわはしたい。今朝、ぬしをみて、そう決めた」 


「神殿なのにいいのか?」

「神殿ははぐくみの場所じゃ。父は母とここで愛を語り合い、父の母もここで子をなした」

 「気に入った男とならだれとでもやるというのか?」


 すると、女神官は小さな手をさっと突きだし、思いきりルーの頬を張り飛ばした。


 ルーが目を白黒させて叫ぶまえに、女神官は叫び返した。


「これぞと思った男のみじゃ! 口の分別のない無礼者め!」


 女神官に飛びつかれ、ルーはあわてて身をそらして逃げた。


「わらわが気にいらぬのかえ!?」


 女神官は泣きそうな声で叫んだ。


「気にいる、気にいらないの問題じゃないんだ!」


 ルーはしがみつこうとする女神官から尻ごみしながら、悲鳴をあげた。


「されば、ぬしは女を縛らぬとできぬ男なのかえ?」


 女神官は真剣なまなざしで詰め寄ってきた。


「あぁ……そうかも知れない……」


 ルーはなかばやけくそぎみでこたえた。


 女神官はしおらしく両手を突きだし、「では、縛られよう。わらわも奇特な女じゃ」


 か細い両手が皮ひもにくくられ、金髪をクリスタルの床に波だたせて横たわった。クリスタルの涙に飾られた白い乳房が、ルーの手の重みにいびつにつぶれた。


 口づけを何度も交わし、金色の蔭りをまさぐるルーの指先に、女神官は哀切にあえいだ。


 白いうなじに頬がすれあい、脈動の激しい振動がつたわってくる。


 女神官のほてった体を舌でさぐりながら、ルーは腰のベルトからファルスを抜きとった。


 おもむろに女神官を腹ばわせ、その背にのしかかり、自分の興奮にあわせてファルスを突きたてようとした。


 女神官が拒絶の声をあげ、手足を暴れさせてルーを蹴りあげた。


 ルーは情けない声を張りあげた。


「こんどはなんだ!!」


 女神官はヒステリックに叫んだ。


 「何度いうたらわかるのじゃ! わらわは獣ではないぞえ!縛るまでは我慢しようが、けだもののように交わるなぞ、わらわを侮辱するつもりなのかえ!?」


 紅潮した頬をさらに赤くし、女神官は憎々しげにルーをにらみつけた。


「そんなつもりはなかったんだ」


 ルーは手にもったファルスを隠して、あわててあやまった。 


「わらわとぬしは相性があわぬのじゃ……そうとしか思えぬ」


 女神官は悲しげにうなだれてつぶやいた。


 ルーは女神官が急にしおらしくなってしまったのをみて、体の芯におもはゆさがにじんだ。


「じゃあ、こうしよう。ずっと目をつぶって、決して僕をみないでくれ。手は僕の首にまきつけて、ほかをさわらないでくれ」


 女神官の深い青の瞳が明るくなった。


「なんじゃ、みると化け物にかわるのかえ?」


 ルーは口ごもり、「うう、まぁ、そんなとこか」


 女神官は口許に笑みを含んで、素直に目を閉じた。


 強情な面持ちが愛らしくゆるみ、まじめな町娘であり、酒場女、女神官でもある女の、真の顔が浮かびあがった。


 ルーは女神官の柔らかな唇をついばむように口づけながら、その感じやすい場所を舌先で転がした。


 女神官はきつくルーの首に腕をまきつけ、いいつけどおりにしていた。ときおり、うなじで細い指先がさわさわとうごめき、ルーを刺激した。


 目をしっかとつぶっているかどうか確かめると、ルーはファルスを取り出し、腰の動きにあわせてゆるやかに分けいらせた。


 女神官が苦しげにうめいた。きゅっと腕の力が増し、ルーの髪を力いっぱいつかんだ。


 死にそうにうめくもので、ルーは心配になり手をとめた。


「とめるでない……」


 か細く泣くような声で女神官はささやいた。


 ルーは女神官のようすをしばしみていたが、ぐいとファルスを突き立て、腰を動かしはじめた。


 体のしたの女神官は目をぎゅっとつぶり、ぽろぽろとまぶたのふちから涙を流していた。ひどい苦痛を我慢するように歯を食いしばって。


 さしものルーも、「大丈夫か?」とたずねてみたが、女神官は吐き捨てるように、「だまりゃっ!」とどなった。


 それで、ルーは浅く優しく動かし、まのびした解放感に身をゆだねた。抜きとったファルスには痛々しく血がこびりついていた。

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