第2話 黒薔薇の矜持

メルシアがやんわりと笑うと、マルスへ言い放つ。

「お坊ちゃん、社会見学へ行きませんか?」

マルスは鳶色の瞳を、綺麗にまん丸に揺らす。同時に、メルシアが大好きなマルスを抱き留めた。夕日が差し込み、マルスの瞳を赤く、それでいてどことなく朱色に染めてゆく。

マルスが、笑う。

どうしてこんなにも、幸せなんだろうか?

社会、未来、そして過去。

いくら押しても出ない、クイズのボタンを押したあとの答えみたいに、マルスがウインクする。

微笑と、少年。

合わせて美少年の矜持。

いくら頑張っても実らない夢のように。

メルシアが、そっとマルスの右手を引く。

「大丈夫だよ、メルシア。僕の心はとても今日、優しいんだ。何時だってギスギスしてるみんなの今日が、幸福なら、僕はそれ以外なにも要らない」

金や名誉や権力に、かしずく自分が、そこにいないのを感じ。

マルスが、友情や愛や優しさを望むのは。

たぶん、誰よりも強いからかもしれない。


カトラリーのデザートフォークがきらりと光った。

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黒薔薇の王子様 1 鈴木タビト @shu35

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