だからといって一度読んでしまい、その作品に対する感情を抱いてしまったのにそれを押さえ込み、無かったことにするのはぼくの矜持に反することなので、的外れなことを言って作者を混乱させることを恐れずに、ここに雑感を記しましょう。
1話 無題
メルヘンです。香りや、魅惑の象徴とも言える花や蝶を主軸に据えることにより、摩訶不思議空想には、言わばデバッグを潜り抜けた小さな歪みのような雑味が混ざるわけです。
摩訶不思議、摩訶不思議、と反復しているあたり、そういった雰囲気を強調したいのかなと思いました。そのようにして、メルヘン世界観が膨れ上がるからこそ、蝶と花が孕んだ歪み、そして最後の一文が引き立つのだと思います。
第2話 三月のうた
個人的に、現時点では一番好きな作品です。
そこに難解な表現技法の類を感じ取ることは出来ませんでした。強いて言うなら逃げていく、天邪鬼、の緩い押韻でしょうか。この作品において強調すべきところはここではなく、かっちりと脚韻を揃えて強調する必要は無いと思うので、このくらいでちょうどいいのかな、と。
ぼくの個人的な楽しみ方として、この作品はただ真っ直ぐ、頭を空っぽにして読むことですね。
なにせこういう界隈に身を置くひねくれ者の一人ですから、"天邪鬼が語る素直な詩"には、何も考えずとも共感を禁じえません。
天邪鬼の素直なメッセージ、といったものがテーマでしょうか。ううむ。
第4話 口癖。
はい。好きというわけではないのですが、一番気になる作品です。
それは「第2話の次に第4話なのか? 何か意味があるのか?」といった重箱の隅をつつくような理由ではなく、ぼくには、最後の彼の笑みと、抱いた感情を推測出来ないからです。
罵るという言葉が明らかに浮いているような気がして、そこに隠された重大な思いを窺わずにはいられません。
冒頭から小綺麗に纏めた、聞き心地のよい彼の思想。そしてそれに対をなすように、歯切れ悪く、それでいて愚直なまでに明け透けに語られる彼女の矜持。正直第三者から見ると、どちらも等価値であるように思います。が、自分と真逆の思想をぶつけられた彼は、何を思って笑ったのでしょう。
単純な皮肉や、親心のような慈愛とは思えないのです。分からない。
第5話 アマガエル
ぼくはこういった作品を読む時、決まって田舎町にある雨漏りの激しい長屋を思い浮かべてしまいます。
風呂上がりに真っ裸で駆け回る兄弟に、呆れた母が「しもやけに足の指を食べられちゃうよ」と窘める。そんなノスタルジックな世界を彷彿させますね。
前話が前話だったのもあり、こういった和やかな作風はすっと胸に染みてきます。
調子を整えに整えまくった筆致は音読にも適しているのかなと思いました。
第6話 無題
本当にふと思ったことに、申し訳程度の装飾。といった印象。ただ言葉選びに関しては、この中で一番好きかもしれません。
続きを乞うご期待、てところですかね。内容としては。
以上が現在投稿分に対する雑感となります。
纏めると、刺さる人には刺さるのかもな、と思いました。
恐らくぼくの感想と作者の意図には相違点があるかと思いますが、それを恐れずにはっきりと言うならこれはそういう作品です。
詩人としてではなく、一小説家から見た気持ちでした。