第3話 早速

「賭博場ってお前行っちゃっていいのかよ?」

「馬鹿だね。あんたが働いていたような違法賭博場じゃあないさ。」

「ユル船上賭博館」

「は?」

 天使が近くまで来て、話し始める。

「砂漠を放浪する大型船です。賭博場として人気で、旅の途中様々な人が金を稼ぎに来ます。その華やかさと娯楽制度から心のオアシスなんて呼ばれてます。」

「説明ありがとうソネット」

 この天使はソネットというらしい。ソネットは笑ってジェシカ()に撫でられている。

「まぁそこへ行くつもりだからとりあえずあんた風呂入ってきな。」

「え?あ…おう」

「ソネット、案内してきな」

「はい。」

 ソネットに連れられて風呂に連れていかれる。船内は手入れが行き届いていて空調もしっかりしていた。各鳥羽組の船内とは大違いだ。

「ここです。着替えとタオルはこちらで準備するので」

「あ…ありがとう…」

 浴室はすごく広かった。

(シャワーの位置高っ…)

 ほとんど滝のような位置からのシャワーを浴びて、体を洗おうとしたその瞬間。

「失礼します」

「うエッ!?」

 タオルを巻いたソネットが入ってくる。

「ちょっ…なんっ…ええっ!?」

「あ、すみません。どうせなら一緒に入っちゃおうと思って」

 テへへと笑いながら頭をかくソネット。俺の脳内はフリーズ中だった。


(ままままままさかこんな天国が待ち受けていようとわああああああ)

「クークスさん、痛かったらおっしゃってくださいね」

「はぁああい♡」

 天使が小さな手で俺の背中を流している。その事実が素晴らしく天国だった。

「あああっあのお!」

「はい?」

「俺も背中流しましょうか…」

 ダメもとで言ってみた。

「いいんですか?」

「いいんですか!?」

「えっ?」

「えっ?」

 謎の間。その時だった。


 ハラリ


「えっ!?」

 天使が付けていたタオルが腰元まで落ちる。

「うわわわわ!//////」

「あ、落ちちゃった。」

「何落ち着いてんですか!早く戻して!」

 バタバタ目を手で覆うとした時、目の端に移った天使の胸は…


「つるぺた…」

「は?」

「アンタ…まさかッ」

「あ、俺一応男型ですよ。」


「ハッはああああああ!?」


 ◇◇◇


「うわっははははははははははははあっははははははははは」

「んな笑うなぁっ!」

 腹を抱えて笑っているジェシカ(仮)を睨みつけると、俺は頭を抱えた。

(あんな天使が男型なんて思うかよォっふつー!!)

 困ったようにジェシカの隣で視線を泳がせているソネットは、俺の視線に気づくと「スミマセン」と手を合わせる。

(可愛い……)

 どう見ても可愛い女の子である。

「はー……笑った笑った」

 涙を拭いながらジェシカは一息つくと、俺の頭をポンポンしながら、「笑い過ぎたよゴメンゴメン」と言う。

「でも気づいてないとは思わなかったなぁ。」

「え?」

「ぱっと見りゃァすぐ分かるじゃないか」

 ぱっと見りゃ?俺が首を傾げると、不思議そうにジェシカは眉をひそめる。

「アンタもしかして【騎士フィーズ】と【人形セイン】の事をイマイチ理解してないね?」

「あ……うん。ずっと森で育ったから……ある程度のことは知ってるけど…分からないとこもある。」


「ふん……」

 ジェシカは口に手を当てて考えると、ソネットに「アレ持ってきて」と言う。


「アレ?」

「流石に弟子が【騎士フィーズ】について理解してないと困るからね!勉強してもらおうと思って…」


 ガンっドゴッ


「へ?」

「うおおっとおおお」

「ちょちょちょソネット!?大丈bってうわあっ何これ!?」

 目の前に積み上げられた本の山。それを見て俺はアホらしく口を開けることしか出来ない。


 本の山から顔を出したソネットが服についたホコリを払いながら戻ってくる。

「ありがとねソネット」

 ジェシカはその中から数冊取り出すと、ポンっと俺の胸に押し付ける。

「これ、全部読んで♡」

「全部読んでって……はぁあああああ???」


 □■□■


「クークスさぁん?平気ですか?」

「んぅー?ソネットか?」

 本の山のせいで籠って聞こえるソネットの声を頼りに山をかき分ける。

 ぷはぁっと顔を出したソネットは器用に本を避けながらこちらに近づいてきた。


「お茶、どうぞ」

「ありがと…」

「読み終わりそう……では無いですね?」

 ソネットの言葉にため息をついて伸びをする。

 読み始めてから何時間か経っているが、一冊ですら読み終わらない。

 終わりの見えないこの試練に心折れそうになっている。

「夕食がもう少しで出来上がるので頑張って下さい!その頃には小梅さんも全快なさっているはずですよ。」

「小梅にこのこと知られたら大笑いされるだろうなぁ。」

 小梅の憎たらしい顔を思い出して少し笑ってしまう。

「あ、ソネット、紙とペン持ってないか?」

「内容をまとめるのですか?」

「うん。それとあと手紙を書くんだ…父親に。」

 ソネットは優しく微笑むと、すぐに持ってきてくれた。


『拝啓________父さん………』

 書き終わると、鞄の中から携帯型の伝書鳩型ロボを取り出して足に手紙を括り付け、飛ばした。

「ロボだからロマンもへったくれもないけど…手紙はいいもんだよな。」


 父さんにも知って欲しかった。自分の旅が思ったよりも楽しそうで賑やかであること。

 そして、早速出来た壁が険しいものであることを。

 俺は本の山を仰ぎ見て、大きなため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

JESSICA ラッコ @Cocoa_Candy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ