第2話 ジェシカ

「う……」

 目を開けると、真っ白な天井が見えた。

「バウッガウガウッ」

「え?」

 獣が吠える声がして、真っ白な天井が一瞬で毛皮に覆われる。

「うおっ」

 巨大な何かが俺の足に飛び乗ろうとしたので、急いで防ぐ。

「ふえっ?犬?てか狼?」

 本能的に身構えて、武器を探し求める。

「ルツ。離れな」

 その声に狼はじゃれるのをやめた。ルツと呼ばれた狼はスルッと俺から離れて、女の足元に擦り寄った。

「それ狼だろ?あぶねぇぞ」

「コイツかい?ルツってんだ。狼と犬の子供だよ。まァほとんど狼だけど」

 女はポンポンとルツの頭を撫でる。さっき俺に襲いかかっていた時とは全然違う声を出してルツは女に甘えていた。

「ここは…」

「ここは私のハイリオートの中さ」

「ハイリオート?」

 陸船の名前なのだろうか。俺が聞くと女が答えた。

「古代メルテの王都に現れた食人鬼の名前だよ」

「…食人鬼?」

 なぜそんなに悪趣味な名前を…。

「まぁハイリオートのことは忘れて」

 さてと、と女はルツから離れソファに腰掛ける。

「調子はどう?」

「お陰様で、、、」

「そうかい。それは良かった。」

 怖い印象だったが意外と大人だ。俺は女をまじまじと見る。輝く様な金髪に深い青色の目。長いまつげにふっくらとした唇。年齢は計り難いがおとぎ話に出てくるお姫様のような外見だった。唯一残念なのは着ているのが下着だけということ。。。ん?

「!!!!!!しっっしたッッ下着ッッッ」

「ん?駄目?」

「だっっ駄目だろっっ!!!!!!」

 急いで目を塞ごうとして腕をバッと上げる。続いて激痛が俺を襲った。

「ぐおおおおッッッ」

「賑やかな奴だね」

「ふ…服着ろ…服っ」

「はいはい。」

 女は「仕方ないなぁ」とでも言わばかりの素振りで女が部屋を出ていった。

「あのー」

「ふっっfaいっっ?!」

 立て続けに何なんだ。俺が扉を伺うとそこには。。天使がいた。

 銀色のショートボブにこれまた青い目。しかしあの女と違って空のような明るい色だった。華奢な体に細い腕。触っただけで壊れそうな美少女が現れ俺の頭は混乱に陥る。

「あ…あのー…?」

「ちょっと待っててください…」

 お姫様に天使…そう!ここはパラレルワールド!違う。

「あなたは…あの人の…?」

「はい。彼女のパートナーです。」

「そっか…セインは全員美しいんだね…」

「セインを見たことがなかったんですか?」

「うん…村にはセインは小梅しか…小梅…小梅!」

 俺は天使を見て喚いた。

「小梅はどこにいるんだ?!」

「小梅さんは今治療中です。」

 にこやかに答える天使セインの横を片足で這いずりながら通ろうとする。

「いけません!ベッドに戻ってください!」

「行かせてください!」

 足を天使セインにひっつかまれ、引っ張られる。

「いででででで」

 負けじと俺は廊下のタイルの隙間に片腕でつかまる。

「ふぎいいいいいいい」

「ぐおおおおおおおお」

 その時着替え終わったらしい女が部屋から出てきて俺達を呆れた目で見る。

「何してんだい?」

「じっっ実はかくかくしかじかでっっ」

「ぐおおおおおおおお」

 女はため息をついて、俺の眼前にしゃがみこむと長くて細い指でタイルにしがみついている俺の指を1本ずつタイルから外し始めた。

 指の力で女に負けるか…!と思ったが全く持って勝てない。怪力かコイツ。女はニヤニヤしながら俺の指を弾いていく。怪力じゃない……ドSだコイツ。

 とうとう最後の1本を弾かれセインに力ずくでベッドに押し戻される。

「くそっ」

「賑やかだねぇ」

 若いっていいわぁと女は首を降る。

 女はまたソファに腰掛けると俺をジロジロと眺め始める。

「なっ何だよ」

「あんたもうほとんど怪我は治ってるんだろう?」

「ん?あぁ、足はもうほとんど痛みはなくって、腕がまだ痛む。」

「ふん。」

 女は鼻を鳴らすとまた俺を値踏みするかのように眺める。本当に何なんだ…?。

「決めたッ」

 女がいきなり立ち上がり俺をビシッと指さす。


「あんた私の弟子になってよ!」


「………は?…はぁ!?」

 俺は事態が飲み込めずあたふたと首を降る。

「いやいやいやいやちょっと待って!」

 女は駄目?と首をかしげている。

「だだだだって俺達名乗りあってもいないし!」

 俺の言葉に女は目を丸くして次の瞬間弾けるように笑い出した。

「ハハハハハハそうだったね!名乗ってもいない!悪かった悪かった。」

 じゃあどうぞというように女が俺を見る。

「俺から名乗るの…?」

「嫌?」

「嫌じゃないけどこの流れだとあなたが先に名乗るんj」

「いいから」

「はい…」

 フゥと俺は息をつくと、気持ちを落ち着かせる。

「俺はクークス・タートイン。サシラの森の狩猟民族の出だ。歳は18。」

「クークスか。」

「あっあんたは?」

「ジェシカ・レセノール」

 は?謎だ。コイツおかしいんじゃないか。


「ジェシカ・レセノールってジェシカ・レセノール?」

「Yes」

「サカアラ皇国の騎士団連合軍VTCの幹部に史上最年少で上り詰めた?」

「Yes」

「VTCでNo.2まできていきなり姿を消してから数年後にまた現れて個人で用心棒業を始めた変わり者の?」

「変わり者って…まぁYes」

「若い騎士たちからの憧れの的の?」

「Yes」


「……嘘だろ」

「NO」

「いやいやいやいや嘘だろぉ?だってジェシカはこんなにドSじゃないし下着姿で陸船を歩き回らないし、そもそもこんな所にいるわけ……」

「ジェシカのソネット。ジェシカのハイリオート。金髪のジェシカ。結構ヒントはあったはずだけど…?」

「…………信じない!!俺は信じない!!」

「まぁ信じなくても別にいいけどね…あ!でもこれから行く所には付き合ってよ。」

「行く所?」

 困惑を通り越して無になってきた心をなんとか保って俺は聞き返した。

「賭博場さ」

「あ〜はいはい。賭博場ね賭博場…賭博場!?」

 続いて激痛。悶え苦しむ俺を見てジェシカは楽しそうに笑った。

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