【7】花束

「それじゃあ気をつけてね。辛くなったらいつでも帰ってきなさい」

 私が玄関を出るとき、母はとびきりの笑顔で私に手を振っていた。

 嫁いでいく娘は、もう三十路のいい大人だ。今更感動の涙なんか出やしないのだろう。でもそれでちょうどいい。やっぱり笑顔の方が母らしいから。

 だから私も、母に負けない笑顔で応えなくちゃ。

「うん、戻ってくるよ。荷物を取りにね」

「待ってるからね」

「はーい」

 車に乗り込む直前、花束に刺さっていたカードを見つけた。


『ラベンダーの花言葉:幸せがやってくる』


 それを読んで、忘れ物を思い出す。

「あ、ちょっとだけ待ってて」

 私は彼にそう言って、もう一度家の方を向いた。言い残した感謝と決意の言葉を伝えるために。


 私を助けてくれたあの日の魔女に捧ぐ。

「今までありがとう。私、幸せになるよ」

 ラベンダーの香りを乗せた風が私の髪を揺らし、ゆっくりと空に昇っていった。

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あの日の魔女に捧ぐ 蛍:mch @Hotaru_mch

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